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保育園の志望順位をボルダルールを使って相談してみた

ボルダルール: 集団意思決定のソリューション

保育園の志望順位を決めるのは難しい。自治体に提出する入園申請の書類では、子どもにとって最も良い園から順に高い志望度を割り当てたい。しかし、僕と妻の意見が常に一致するとは限らないから、慎重な話し合いとすり合わせが必要になる。

そこで、2 人が納得できる志望順位を炙り出すために、ボルダルールを使おうと考えた。ボルダルールは、集団意思決定の方法の一つ。ボルダルールは、様々な点で多数決よりも優れた意思決定の方法だ。詳しくは別の記事にも書いたので、ご参考まで 😁

ボルダルールの考え方は、とてもシンプル。例えば 10 件の保育園の候補があるとき、1 番良いと思う候補に 10 点、2 番目に良いと思う候補に 9 点、…、10 番目に良い (= 最も悪い) と思う候補に 1 点を投じる。2 人が各候補に点数を振ったあと、点数の合計が大きい順に志望順とする。それだけ。

実践!保育園選びをボルダルールで

僕も妻も納得できそうな保育園の志望順位を、ボルダルールで割り出してみた。まず、近所の有望そうな 11 個の保育園を抽出し、それぞれを見学する。それから検討項目 (広さ、保育方針、園庭、子供の様子、遊具、…) を考慮して、僕と妻が独立に順位を決める。最後に、点数を合計して順位を割り出す。やってみたのが、次の表。

保育園僕: 順位 (点数) / Borda との差妻: 順位 (点数) / Borda との差Borda: 順位 (点数)
A1 位 (11 点) / 01 位 (11 点) / 01 位 (22 点)
B2 位 (10 点) / 02 位 (10 点) / 02 位 (20 点)
C3 位 (9 点) / 03 位 (9 点) / 03 位 (18 点)
D4 位 (8 点) / 05 位 (7 点) / +14 位 (15 点)
E6 位 (6 点) / +14 位 (8 点) / -15 位 (14 点)
F9 位 (3 点) / -36 位 (6 点) / 06 位 (9 点)
G5 位 (7 点) / -110 位 (2 点) / +46 位 (9 点)
H8 位 (4 点) / 08 位 (4 点) / 08 位 (8 点)
I10 位 (2 点) / +17 位 (5 点) / -29 位 (7 点)
J7 位 (5 点) / -311 位 (1 点) / +110 位 (6 点)
K11 位 (1 点) / 09 位 (3 点) / -211 位 (4 点)
各保育園の点数 (順位)

単純な手法ながら、それなりに良い結論が得られたと思う。僕と妻の計 22 個の希望のうち、半数の 11 個で結果との差は ±0 だ。さらに各自の希望と結果の差は、全体でも平均して ±1 以内*に収まった (* [Borda との差] の絶対値の平均)。上位の保育園については、僕と妻で最初から意見が同じだったのは幸いだ😂。下の方については、意見が少し異なるようだけれど。

ボルダルールで保育園の志望順位を決める

問題は、2 つの保育園を 6 位に選んでいる点。 当然ながら、自治体に提出する書類に 6 位を 2 つも書けないので、どちらかを 7 位にする必要がある。もし同点の候補があったとき、どちらを優先/劣後するかについて、ボルダルールは特に定めていないそうだ。どうしようか?🤔

同点の候補を、べき乗を使って対処する

ボルダルールで同点の候補があったとき、どちらを優先するかの方針を言語化して、さらにその数理的な表現を探ってみた。まずは妻と話し合って「意見のすり合わせでは、こういう要素を重視して優先度を決めよう」と方針を決める。そして、その方針を数式に落とし込む。

例えば「同点の場合、より高い評価を得た候補を優先しよう」と考えるなら、各自の得点を 2 乗して合計する方法が使えるかもしれない。例えば計 9 点を取った 2 つの候補 F (3 点 + 6 点) と候補 G (7 点 + 2 点) で得点を 2 乗すると、F: 45 点、G: 53 点と、より高い評価 (ここでは 7 点) を得た G が上位に来る。これは「評価の割れた候補を採用しやすいルール」とも言える。

得点を 2 乗して順位を決めた。ボルダルールで 6 位だった F が 7 位に転落 (他は変わらず)

💡 ベキで同点に対処する案は Quadratic voting (二次投票) から着想を得た。二次投票は、ボルダルールとはまた別の集団意思決定の方法。2 乗の非線形な性質を取り込んで、より精緻に少数派の意見を汲み取ることを目指す。今回の場合は 2 人での意思決定だから、あんまり関係ないんだけど😅

一方「同点の場合、評価が割れが小さい候補を優先しよう」と考えるなら、各自の得点を 0.5 乗してから合計する方法が使えるかもしれない。例えば計 9 点の 2 つの候補 F (3 点 + 6 点) と候補 G (7 点 + 2 点) で得点を 2 乗すると、F: 4.18 点、G: 4.06 点と、評価の割れが小さい F が上位に来る。広く支持される候補を選びやすい方法だ。

得点を 2 乗して順位を決めた。ボルダルールで 6 位だった G が 7 位に転落 (他は変わらず)
(参考) 各ベキでの合計得点の表
候補ボルダ2 乗0.5 乗
A11 点11 点22 点242 点6.63 点
B10 点10 点20 点200 点6.32 点
C9 点9 点18 点162 点6.00 点
D8 点7 点15 点113 点5.47 点
E6 点8 点14 点100 点5.28 点
F3 点6 点9 点45 点4.18 点
G7 点2 点9 点53 点4.06 点
H4 点4 点8 点32 点4.00 点
I2 点5 点7 点29 点3.65 点
J5 点1 点6 点26 点3.24 点
K1 点3 点4 点10 点2.73 点
ボルダルール、2 乗ルール、0.5 乗ルールにおける、各候補の得点

参考のために、もっと幅広いベキで得点を算出すると、結果がどう変わるかを調べてみた。下図は、横軸がベキ (対数軸)、縦軸が結果の順位を表す。今回の例では、ベキが 0.1 から 10 の間で順位の変動が起きるようだ。

幅広いベキで得点を算出し、順位を求めた

ベキは、方針の “徹底度” を表現すると考えられるかもしれない。1 に近いベキを使うと、基本的にはボルダルールで意思決定し、同点の場合に限って設定した方針を適用するイメージ。反対に、1 から離れたベキを使うと、ボルダルールをベースにしつつ、可能な限り設定した方針を徹底するイメージだ。

✍️ Google Sheet で計算すると、10^(8/5) より大きいベキで J が浮上して I と 8 位タイになってしまう。これは情報落ちによる誤差の影響なので、上図では訂正しています。

各ベキは、方針を正しく表現してる?

定性的に「小さいベキは、一致した希望を優先」「大きいベキは、強い希望を優先」と解釈できるベキが、本当にその方針を体現しているか確認してみよう。

まず「より高い評価を得た候補を優先する」の方針を確認しよう。次の散布図は、横軸が各候補が得た最高評価 (順位で表示)、縦軸が最終的な評価 (順位) を表す。10 乗ルールの結果 () のほうが、0.1 乗ルール () の結果に比べて、より左に位置する点がより下に位置する傾向があるのが見て取れるね👍

赤のほうが直線的で、青のほうがジグザグしてるな~ と見えれば OK

次に「評価が割れが小さい候補を優先する」の方針を確認しよう。次の散布図は、横軸が各候補が得た最低評価 (順位で表示)、縦軸が最終的な評価 (順位) を表す。0.1 乗ルールの結果 () のほうが、10 乗ルール () の結果に比べて、より左に位置する点がより下に位置する傾向がある… ような気がする。そうでもないかも?😅

青のほうが直線的で、赤のほうがジグザグしてるかな~

💡 本当は評価の割れとの相関を表現したかった。しかし、良い可視化を思いつかず、最低順位で代えた。今回の例では評価者は僕と妻の 2 人しかいないので、評価が割れれば最低順位は下がるし、評価が揃えば最低順位は上がるので、代替として機能しうると思う。

まとめ

保育園選びでボルダルールを使ってみた。僕の希望順位と妻の希望順位を擦り合わせた案を算出するのに、結構使えるのではないかと思う。記事の後半では、各自が割り振ったボルダ得点をベキ乗して、ボルダルールで生じた同点候補に対処する微調整を検討した。純粋に数理的操作のみで対処できるのは強みである一方で、検討項目 (広さ、保育方針、園庭、子供の様子、遊具、…) を全く考慮しないので、その点は良し悪しかなあと感じる。

今回検討した 2 乗ルールと 0.5 乗ルールは、「ペア敗者規準」を満たさない。ペア敗者規準とは、「ペア敗者を選ばない」という意思決定法を評価する規準のこと。ペア敗者とは、他のどの候補と 1 対 1 で多数決をしても負けてしまう候補のことだ。重要なことは、上記 2 つとは対照的に、ボルダルールはペア敗者規準を満たすということ。

有権者が何人でも、選択肢が何個でも、そして有権者の選択肢への順序付けがどのようであっても、ボルダルールはペア敗者を選ばない。つまり「いかなるときもペア敗者を選ばない」という規準、ペア敗者規準を満たすわけだ。その意味でボルダルールは集約ルールとして性能がよい。…

数あるスコアリングルールのなかで、ボルダルールでなければならない理由――つまり配点を上から 3 点、2 点、1 点のように等差に刻むべき理由――は何なのだろうか。結論からいうと、ボルダルールでないどのようなスコアリングルールも、ペア敗者規準を満たすことはできない。

多数決を疑う

ベキを使った得点調整は、ボルダルールの強みを損ないかねない。独善的にルールを考案しても特にマシなことにならないという、ある種の教訓を得られた気がするw

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