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ボルツマン脳、ホログラフィ、マルチバース。知の最前線で観測者に委ねられたタイプ C の “謎” とは? – 書評 2025 Q4

95% の宇宙

最近いろんな YouTube に登場してる UC バークレー校の教授 野村泰紀氏による宇宙物理学の入門。この本の内容を YouTube で見たければ、ReHacQ (#1#2#3#4) と CrossDig (#1#2#3) でほぼ同じ情報を得られる。この本を書く際に整理した情報を、YouTube でも惜しみなく語ってるんだろうね。

95% の宇宙

印象的なのは、物理学の文脈に登場する「謎」の 3 分類。タイプ A は、単に「不思議だね~~」という程度の謎。タイプ B は「理論はあるけど、この理論が正しいか自信がない」の意味。タイプ C は「まだはっきりしたことは全然分からない」の意味。これらを本書はキチッと区別して語るから、現代の物理学は何を分かっていて何が分かっていないかが、非物理学者の読者も誤解なく読み解ける。表面的な分かりやすさやキャッチーさに走らず、誠実に語る本書は信頼できるよね。

Amazon の試し読みから抜粋

僕が個人的に気に入った数点を追加で紹介しよう。

歴史は実験できるのか

『銃・病原菌・鉄』の著者ジャレド・ダイアモンド氏が贈る人類史への考察本。特に印象的だったのは、イースター島の文明滅亡の原因は、島民の無知や無謀はないと指摘した箇所。この結論は、太平洋の 69 の島々に関する 2 つの統計分析から導かれた。

歴史は実験できるのか
分析説明変数定義域
環境変数(1) 降水量、(2) 気温、(3) 島が誕生してからの年数、(4) 風で運ばれた灰、(5) 風で運ばれた塵、(6) マカテア、(7) 島の面積、(8) 島の海抜、(9) 孤立状態数値、または 2 – 4 段階評価
農業変数(1) タロイモの水田耕作、(2) ヤムイモ、タロイモなどの作物の畑作、(3) パンの木の樹木栽培、(4) タヒチアン・チェスナッツやカンラン科のナッツの樹木栽培それぞれ [存在しない]、[存在してもわずか]、[重要]、[有力] の 4 段階
(*) マカテアとは化石化したサンゴから構成される地形のことで、これは歩行に適さない

森林破壊の程度 (5 段階で評価) を目的変数に重回帰分析を行なうと、農業変数は森林破壊を上手く説明せず、環境変数は森林破壊を上手く説明したそうだ。つまり、イースター島の再起不能な森林破壊の原因は、風によって運ばれる灰や塵が太平洋のどの島より少なく、ポリネシアの中では最も気温が低く、最も孤立しており、マカテアが存在せず、海抜が低く、面積が小さく、誕生してからの年数が長く、乾燥していたからだと。

歴史の原因を環境に求める論理展開は、相変わらず痛快だ。「人間性」などの曖昧さではなく、地形や気候や植生などが歴史を制約してきたとの視点はとても科学的だし、再現性もありそうだ。一方で、上記の分析を読んでも、十分に納得できるかというと微妙に思う。元ネタの論文はもっと詳しいのかも?

他の感想

三体

三体 (3 部作の第 1 部)

数々の賞に輝き、オバマ元米大統領も推薦したという傑作長編 SF。僕はいまいちピンとこず、あまり内容を覚えていない😅 印象にあるのは人列コンピュータで、実際に動かすなら、おそらく陸自中央音楽隊のような軍楽隊がセットで配備されるんだろうと想像した。

Netflix による人列コンピュータの実写化には、軍楽隊はいなさそうだけど

数 1000 万人の人間を論理ゲートとして同期させるには、CPU のクロック信号に相当する精密なテンポ刻みが欠かせない。かつての戦列歩兵は、太鼓の音で歩法を揃えた。人列コンピュータにおいても、伝搬遅延による論理破綻を防ぎ、計算の整合性を保つマスタークロックとして、軍楽隊の演奏が技術的に必然の役割を担うはずだよね。

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