任天堂が T スピンをねじ込んだライセンス条項の隙間 – 書評 2024 Q2
テトリス・エフェクト
最も多く移植されたゲームとギネス世界記録が認定するテトリスが、いかに共産主義下のソ連で発明され、西側諸国へ輸出され普及したか。その舞台裏で活躍した人々のドラマを描く。発明について言えば、ソ連の計算機が西側より低性能だからこそ、単純明快なテトリスの発明に至ったんだとか。
1989年、任天堂がソ連へ送りこんだ一人の男―― 目的はゲームボーイ版テトリスの発売権獲得だった。ソ連政府との駆け引き、日米英ライセンス争い、法廷闘争……史上最も売れたゲームの驚きの誕生秘話。
テトリス・エフェクト
1989 年、コンピュータ向けの使用許諾をハンガリーの Andromeda Software が取得していた。その契約が「PC コンピュータはプロセッサー、モニター、ディスクドライブ、キーボード、オペレーティングシステムで構成される」と家庭用ゲーム機を含まない点に目をつけ、任天堂は使用許諾を交渉する。

晴れて Elorg (Wikipedia) から使用許諾を得たヘンク・ロジャースから再許諾を受け、任天堂はゲームボーイにテトリスを発売した。ロジャースは交渉の代理人で、当時の NOA (Nintendo of America) 代表 荒川が、競合に動きを悟られまいとして指名した。張り詰めた業界の思惑は刺激的だ。
1.2 億台売れたゲームボーイのうち、4000 万台がテトリスを同梱して販売された。例えば iPhone では SNS (Instagram 等) がキラーアプリとして普及を支えたが、テトリスではゲームボーイがキラー **ハードウェア** として普及を支えたのは興味深い逆転だと思った。
フューチャー・ウォー
技術進歩に伴う戦争、国際関係、外交行為の変化に関する考察。機械兵が人間を殺す未来はおよそ空想でなく、それが SF 的な「機械と人間の戦争」の実態ではとも連想した。もし戦争に徴用された機械兵が敵性の人間を攻撃し、敵性の機械兵を攻撃しなければ、それは「機械と人の戦争」に見えるよね。

米軍の先端研究の事例は興味深い。未来戦では敵性兵士を殺しても敵国に与える損害は僅かで、施設や設備への攻撃のほうが効果的だ。兵士同士の戦闘はもはや局地支援でしかなく、主な戦線は機械 vs 機械なのかもしれない。
気になるのは、本文で繰り返される「わが国」。アメリカのこと?「わが国」はそれが指す国を読み手に察してもらう前提のある甘えた表現で、他人に読ませる文章で使うのは恥知らずで幼稚だと感じる。書き手の国がどこかなぞ知ったことか、ただ国名を書け。
サピエンス全史 (下)
文明は人類を幸福にしたか?『Factfulness』が焦点を当てた過去数 10 年の劇的な社会の改善は、一時的で特異的な流れの逆転かもしれないと本書は警告する。この問い掛けが印象的 – 月に足跡を残すアームストロングは、3 万年前にショーヴェ洞窟の壁に手形を残した狩猟採集民より幸せだったか?
上巻の認知革命と農業革命に加え、本書の力点は貨幣・帝国・宗教、そして科学革命にある。文字の発明を強調しないのは不思議だ。貨幣・帝国・宗教は認知革命の影響下にあり、科学革命は文字の発明の影響下だ。文字の発明は、人類史に絶大な影響を及ぼした独立な因子として個別の言及に値すると思う。
文明はなぜ爆発的な進歩を遂げ、近代ヨーロッパは世界の覇権を握ったのか? 帝国・科学・資本を中心に未来への幻想が生まれる歴史を解く。文明は人類を幸福にしたのか?
サピエンス全史 (下)
核家族化で失われたものは、現在では制度や商品として提供されている。かつて家族は、福祉制度で、医療制度で、教育制度で、建設業界で、労働組合で、年金基金で、保険会社で、情報メディアで、銀行で、警察だった。現在では国家または企業が、家族に代わりこれらを提供する。
家畜の客観的・主観的欲求への眼差しも興味深い。餌と水を与えられ、病気の予防接種を受け、成長後にほぼ確実に子孫を残す家畜は、客観的には空前の好条件を生きている。しかし母との絆を絶たれ、他の仲間と遊ぶ機会を奪われ、工業製品化された家畜の主観的欲求は顧みられないのだろうか?

侵略にまつわる逸話が面白かった。月面探査を控える宇宙飛行士たちが、米国西部の砂漠で訓練していた。そこには月の聖霊を信じる先住民が住む。ある先住民の老人は、白人が今度は月を侵略すると危惧し、彼らの言葉で「この侵略者を信用するな」と聖霊宛ての伝言を飛行士に託したそうだ。
大英帝国の栄華の礎となった三角貿易の、成長率は 6% だったらしい。これは豆知識として覚えたい👍
崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男
ハイチ移民の子として生まれたアメリカ任天堂の元社長兼 COO のレジー・フィサメィが 35 年のキャリアで学んだ教訓と哲学とは?P&G、ペプシコ、VH1 などでキャリアを積み、アメリカ任天堂のトップまで上り詰めた男のキャリアを通じて直面した困難を打破し、ゲーム産業史上最もパワフルな人物の一人になるまでの激動の人生
崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男
冒頭「幸運とは、準備と機会が出会うこと」の強烈な格言で幕を開ける本書は、NOA (Nintendo of America) とその元 CEO レジーの半生を語る。任天堂ファンとしてそれらを知らないのは勿体ないと思い、手に取った。

レジーの経歴に裏付けられた、熱い激励のメッセージが印象的。生存者バイアスと思わなくもないけど笑。ビジネスで必要な 3 つの関係 (下掲) は参考になる。他に日本企業の在米の子会社が、現地市場に最適化するための権限や企業文化 (下掲) への氏の考えも興味深い。
| 関係 | 役割 |
|---|---|
| コーチ | 以前にあなたと同じ仕事をやり遂げたことがあり、その仕事の仕方を教える |
| メンター | 伝えにくい点を代弁してくれ、代わりのアプローチやアイデアを提案してくれる |
| サポーター | 周囲にあなたのことを好意的に語ってくれる。特に、あなたがいない場所でも |
完璧なカルチャーなど存在しない。その時時のビジネス状況と一緒に進化しなければ、会社もカルチャーも時代から取り残されてしまう。
崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男
メトロイドプライム ハンターズ や脳トレ (わずか 5 ヶ月で開発!) に関する、任天堂ファンなら嬉しい小ネタも満載で、読んで飽きない。この四半期で、一番楽しめた本だと思う。ちなみに、冒頭の格言は小セネカのものとされがちだが、出典は不確かのようだ。
Science Fictions – あなたが知らない科学の真実
著名な科学実験やベストセラーの間違いを紹介しながら、科学における不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみを多数の実例とともに解説。単なる科学批判ではなく、科学の原則に沿って軌道修正することを提唱する。既存の本で知ったウンチクを得意げに語る人に読ませたい、真実の書。
Science Fictions
バカっぽい宣伝とは裏腹に、本書は骨太で読み応えがある。確かに「科学の真実」「イカサマ」など、強すぎる言葉が表紙に目立つ。しかし Retraction Watch Leaderboard など多くの事例から科学 (の一部) に蔓延る不正と歪みを暴く内容は真に迫る。ある程度の知識が無いと読めないのではとすら思った。

印象的なのは p 値ハックと HARKing の話題。統計を扱う学問の中には、統計操作の怪しい論文がまかり通る分野があるそう (例: 社会科学、心理学、生理学など)。それに対し 2019 年「p 値による有意性検定を止めよう」と 800 人以上の科学者が署名し Nature に投稿した。

学術不正を防ぐ様々な取り組みや新しいアイデアも紹介されていた。例えば p 値による “検定” から、信頼区間による “推定” へ移行する提案は僕のイチオシ。他に、論文の粗製乱造への対策には H 指数を用いた業績評価が有効だとか。賢い科学者たちが学術不正の抑制に努める現状には希望があるね。
