数値を見て、事実を知る。思考の偏りを克服せよ – 書評 2024 Q1
探求する精神
役に立たなそうな学問の意義の基礎付けに、Max Weber (Wikipedia) の「価値合理的行為」に言及していた。価値合理的行為とは、行為自身の価値のために行う行為のこと。対照の概念が「目的合理的行為」で、これは予め設定された目的に最も効率的に到達するために合理的に選択された行為を指す。
価値合理的行為の結果は、「役に立つことを目的として成し遂げられたことよりも、無限に大きな重要性を持つことがある」とは、Abraham Flexner (Wikipedia) の言葉だそう。価値合理的行為の重要性は、非連続的な革新を生む点にあると。

また、「計算されたリスク」という言葉が登場したことが印象的だった。限られた資源を意図したとおりに分配するには、計画を練り、リスクを計算し、使命に忠実であり続けることが重要と説かれてた。
研究所の資源は限られているので、何かを引き受けると別のことをする機械を失うかも知れません。… 資源を最も効率的に活用し最高の成果を目指すには、研究所のミッションを指針にして計算されたリスクを取りらなければなりません。
探究する精神
Factfulness
この本は「4 つの所得レベル」の概念を有名にした。1 日あたりの所得が (1) < $ 2、(2) $ 2 – 8、(3) $ 8 – 32、(4) $ 32 < と分類すると、地球人口は約 10 億人、30 億人、20 億人、10 億人に分かれるという。安易に先進国、後進国などと分けるのは誤りで、多くの人が思うより極貧にある人口は少ないのだ。
安易な分断思考のせいで、所得レベル 4 の人は所得レベル 1 – 3 の人がすべて同じ生活をしていると勘違いしてしまう。実際の生活レベルには極めて大きな幅がある。世界は着実に改善しているが、人に備わる思考の偏りが目を曇らせる。データと現実をつぶさに観察して、偏りを克服できると本書は説く。

面白い逸話が紹介されていた。Unicef が、アンゴラへ送る 10 年分のマラリア薬の買い入れ契約を競争入札で募った。スイスの小さな家族経営の製薬企業 リボファームが、1 錠あたりの値段が原料価格よりも安い値段で落札した。正義の Unicef にたかる悪徳企業だと著者は訝しみ、取材に突撃する。
時間差の金利が、そのカラクリだった。原料代金の支払い期限は 30 日後、Unicef からの代金支払いは 4 日後。お金が口座に眠る 26 日間で、利益を得る仕組みなのだと。著者の思い込みを打ち砕いた逸話として紹介されていて、僕はその奇抜なビジネスモデルに衝撃を受けた。
運動しても痩せないのはなぜか
カロリー消費を正確に測る新しい技術のおかげで …「1日の総消費カロリーは運動しても増えない」ということが明らかになったのだ。… だからといって、運動なんか意味がないということには決してならない。
運動しなくても、1日の消費カロリーは減らないのだから、余ったカロリーは別のことに使われているはずだ。…これがアレルギーや関節炎、動脈疾患のほか、さまざまな「現代病」の原因と考えられるのだ――。
運動しても痩せないのはなぜか

「制限的日次カロリー消費」がキーワード。1 日の消費カロリーは、運動しようがしまいが一定だ。それゆえ、運動しても別に痩せない。しかし、運動はしたほうが確実に健康に良い ― なぜならカロリーの消費の仕方が変わるからだ。それを懇切丁寧に解説した本。
人類の研究に、現代も伝統的な狩猟採集生活を営むアフリカのハッザ族は貴重な存在だね。以前『銃・病原菌・鉄』を読んで、再現性の無い事象の科学の難しいさを感じた。人の生活史は再現実験できないけど、わずかに残るこうした比較対象を用いて科学するのは素晴らしいね。
企業参謀
コンサル言葉が大量に出てくる抽象的な書。KFS (Key Factor for Success) を見極めろ!と繰り返し主張されていたように思う。読みはしたものの、あんまり頭に入ってないし残ってない… ので詳しく書けません!笑 この本、昔も読んだことあると思うけど、内容すっかり忘れちゃった。

数学に魅せられて、科学を見失う
科学 (特に物理学) は「世界は美しい法則に支配されている」と信じている。この信仰はときに、科学者を誤りへ導く。端的な例は宇宙定数で、「宇宙は定常なはずだ」との信仰が天才アインシュタインを誤らせた。古くは天動説「地球は宇宙の中心であるはずだ」もこれに該当する。
このような数学的な端正さや美しさに、科学者が魅了されて誤りを犯した例を挙げるのが本書。もちろん物理法則に数学的な美しさが潜む場合もあるけど、それは「必ず」ではないよねと諌める。数学に魅せららせて、科学を見失うとはそういう意味。極めて知的刺激に富む良書だった👍

僕が印象的と思ったのは次のフレーズ。
物事の自然な秩序に美と意味を見出すことは、人間本来の欲望のひとつであり、科学者にしてもそれを免れてはいない。心理学者のアーヴィン・ヤーロムが「無意味さ」を人間の四つの実存的恐怖の一つの挙げているように、私達はこれを避けるために骨身を削っている。
(注: 残る 3 つの実存的恐怖は死、孤独、そして自由だそう)
数学に魅せられて、科学を見失う
もう一つ、他に気に入った表現を引用しよう
「法というものは、ソーセージと同じく、どのように作られているかを知れば知るほど、敬意が湧かなくなる」とは、ジョン・ゴッドフリー・サックス (19 世紀のアメリカの詩人) の辛辣な言葉だ
数学に魅せられて、科学を見失う

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