そろそろ “プラットフォーム” を整理しよう – [🛍️媒介型] と [🛠️基盤型]

最終更新日

区別して分かる「プラットフォーム」の正体

プラットフォームって何?そう人から問われたとき、明晰に応えられない人も多いと思う。聞き慣れた「プラットフォーム」という言葉は、要するに結局何を指すものなのか?全体をスッキリと整理できる枠組みを、ここに書き留めておく。

「プラットフォーム」には大きく分けて 2 つの類型がある。[🛍️ 媒介型] と [🛠️ 基盤型] だ。これらの性質を異にする 2 つのものが、同じ「プラットフォーム」という言葉で語られるから、プラットフォームは分かりにくい。以下では、媒介型と基盤型のそれぞれが、どんなものを指すかを概観しよう。

🛍️ 媒介型 – 多数の参加者で外部ネットワーク効果を狙う

媒介型のプラットフォームは、異なるグループ (例:売り手と買い手) を仲介・マッチングし、直接的な取引や交流を促進する。よく言われる例は楽天市場や Amazon で、サードパーティの出品者が多数の商品を販売してるね。参加者が増えるほど場の価値が高まり、参加者がさらに増える。この現象は外部ネットワーク効果と呼ばれるね。

成長を促進する要素を示す円形の図。中央に「GROWTH」と書かれ、その周囲に「SELLERS」「TRAFFIC」「CUSTOMER EXPERIENCE」「SELECTION」が矢印で関連付けられている。
Amazon の有名な “はずみ車” [出典 The Amazon flywheel: part 1 | Sam Seely]

美容室と髪を切りたい人、不動産屋と家を探す人などを媒介するサービスは、参加するグループの数が 2 種類 (Two-sided) の媒介型プラットフォーム。プログラミンググスクールが、学習者・転職者と採用企業をマッチングする例も、これに当たる。以前この記事で触れた、リクルートの「リボンモデル」も、媒介型プラットフォームの一種と捉えられそうだ。

媒介型プラットフォームに参加するグループの数は、常に 2 種類とは限らない。有名な書籍『プラットフォーム戦略』の表紙には、デカデカと MSP (Multi-sided Platform) Strategy と書かれている。例えば YouTube という媒介型のプラットフォームには、大別して 3 つのグループが参加している。(1) 視聴者、(2) 広告主、(3) コンテンツ提供者 (YouTuber) だね。

プラットフォーム戦略

🛠️ 基盤型 – アプリケーションを載せ、実行する土台

基盤型のプラットフォームは、第三者 (特に開発者) が補完的な製品・サービスを開発・提供するための技術的な基盤や規格を提供する。例えばオープンソースのマイコン Arduino や、パブリッククラウドの AWS は、基盤型プラットフォームの一種だね。開発者は Arduino や AWS 用にアプリケーションを開発し、Arduino や AWS の上でそれを実行できる。

白い犬の形をした小物入れ。後ろには持ち手が付いており、犬の顔があり、口には小さな穴が開いている。
Arduino – Home | Arduino は “platform” だと説明されてるね

DJI のドローン Matrice 400 も、”プラットフォーム” と紹介されている。これは、フルカラーの可視光センサ、ミリ波レーダー、回転式 LiDAR、IP55 の防水防塵モーター、高性能なフライトコントローラー等を搭載した Matrice 400 を使って、開発者がアプリケーションを構築できるからに他ならない。そのために DJI は、開発者向けに Mobile SDKOnboard SDK などを提供している。Matrice 400 は、基盤型の意味で確かにプラットフォームなのだ。

DJI Matrice 400ドローンの広告画像、山々を背景にした製品名とキャッチコピーが表示されています。
DJI Matrice 400 – さらなる堅牢性、無限の可能性 – DJI Enterprise
開発者向けエコシステムの紹介。インテリジェントアルゴリズムデベロッパー、PSDK、MSDK、クラウドAPI、オープンデータアクセスに関する情報が記載された画面。
DJI Matrice 400 – さらなる堅牢性、無限の可能性 – DJI Enterprise

注意すべきは、基盤型のプラットフォームは、異なるグループを仲介して取引や交流を促進しているわけではない点。ユーザーが Arduino や Matrice でソリューションを構築しても、このプラットフォーム上で誰か別の参加者とのマッチングができるわけではないよね。

🛍️ 媒介型 × 🛠️ 基盤型、両面を併せ持つプラットフォーム

ややこしいことに、媒介型と基盤型の両面を併せ持つプラットフォームも存在する。これが、”プラットフォーム” の概念が分かりにくい最大の理由かもしれない。

両面を持つプラットフォームの例としては、iOS が挙げられる。iOS は、iPhone のハードウェア性能を引き出す効果的な API を開発者に提供し、開発者はこれを活用して魅力的なアプリケーションを開発できる。この点で iOS は、基盤型のプラットフォームだと言える。

AppleのSDKについての情報を提供する画像。ラップトップ、タブレット、スマートフォン、スマートウォッチが並んでいるデザイン。
Appleデベロッパ向け最新情報 – Apple Developer

iOS が他の基盤型プラットフォーム (Arduino や Matrice) と一線を画するのは、アプリのマーケットプレイス (App Store) がある点だ。App Store に魅力的なアプリが多数あると、iPhone を買う人は増える。すると iOS 向けにアプリを提供していない開発者も、多くの消費者を求めて App Store にアプリを提供するようになる。この正のフィードバックは、まさに外部ネットワーク効果そのものだ。アプリのマーケットプレイスは、基盤型プラットフォームに媒介型の性質を付加するのだ。

媒介型と基盤型を両立する他の例としては、Nintendo Switch があるね。Switch は、HD 振動や固有のフォームファクタをゲーム開発者に提示し、ゲームを開発し実行する土台の意味では基盤型だ。そして同時に、サードパーティが Switch で遊べるゲームを Nintendo eShop に提供することで Switch の所有者を増やし、Switch の所有者が増えれば Switch 開発者が増えるという、媒介型の特徴も持っているね。

提供者ハードウェアソフトウェアマーケットプレイス
AppleiPhone 等iOS 等App Store
Google#n/aAndroidGoogle Play
NintendoSwitch(🤔名前不明)Nintendo eShop
媒介型 × 基盤型プラットフォームを分解してみた

以下は、関連するけどちょっと違う話題たち。

余談 1: Android のプラットフォーム類型

Android も iOS 同様、基盤型と媒介型を兼ね備えたプラットフォームだ。しかし Android というプラットフォームが特徴的なのは、AOSPGMS に要素分解できる点。AOSP (Android Opne Source Project) は、基盤型プラットフォームではあるけど、媒介型プラットフォームではない。Android に媒介型プラットフォームの性質を与えているのは、GMS (Google Mobile Service、要は Google Play) だね。iPhone – iOS – App Store を密に垂直統合している Apple とは、少し異なる戦略だ。

これは推測だけど、Google による AOSP と GMS の分割は意図的でしょう。分割の目的は、「我々はオープンで透明です😉」と訴求しつつ、きちんとお金も稼ぐこと。媒介型プラットフォームは、下手をすると「閉鎖的」とか「ロックイン」といった悪評を招きかねず、実際 Apple すら免れていない (余談 4 でも言及する)。Google はこのために、あえて AOSP と GMS を分割しているのだと思う。

とはいえ、状況は目まぐるしく変化してる。2025 年 8 月に、Google は Android アプリの開発者に情報登録を義務化する計画を発表した。これによって、Google Play を経由しないアプリについても Google の支配と統制が及び、決済手段や手数料など、大手プラットフォームに有利な条件が提示される懸念がある。この記事が詳しい。

余談 2: AWS の媒介型プラットフォーム

AWS Marketplace は、ソフトウェア開発者 (ISV: Independent Software Developer) と AWS ユーザーが製品を売り買いする、媒介型のプラットフォーム。主にソフトウェア (SaaS、AMI、コンテナ)、データ (機械学習用のデータセット)、サービス (導入支援、システム統合、コンサルティング) などが売買されている。

AWSマーケットプレイスにおける購入者、売り手、AWS間の情報フローを示した図。
とは AWS Marketplace – AWS Marketplace

AWS Marketplace まで含めて “AWS” と呼べば、AWS は基盤型と媒介型の両面を持っていると言えるかもしれないね。B2B が中心なので、B2C の媒介型の例 (楽天市場、Amazon、Google Play、Nintendo eShop、…) のような知名度は無いかもしれないけど。

余談 3: チューリング完全性と、基盤型プラットフォーム

少し勇み足に「チューリング完全なシステムは、基盤型プラットフォームと呼びうる」と言ってみる。

例えば Microsoft Excel も基盤型プラットフォームと呼べないかしら。Excel は、組み込みの関数や VBA (マクロ機能) を使うことで、ユーザーが独自の業務アプリを構築するための基盤として機能する。関数で行う処理を “表計算” と呼べば、「Excel は表計算プラットフォームです」と言えないかな。

同じように、こんなことも言えたりして。Minecraft は、ボクセル指向の回路プログラミングのプラットフォームだ。ライフゲームは、基盤型プラットフォームのセル・オートマトンによる実装だ。曲解ではあるけれども、命題として偽であるとも言い難いような?

I built ChatGPT with Minecraft redstone! – YouTube (Minecraft が “プラットフォーム” である好例)

余談 4: プラットフォームよりプロトコル

媒介型プラットフォームの問題点を挙げ、プロトコルが解決策になると指摘したエッセイ Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech は、非常に興味深い。特に Facebook、YoTube、Twitter、Reddit のようなソーシャルメディアを対象に、コンテンツの節制 (不適切な内容を検閲し削除・制限すること) に注目している。曰く、こうしたプラットフォームは、不適切な内容を許容しても削除しても、反対の立場のユーザーの不満を買う。しかしどの立場のユーザーからも何らか対策を期待されており、勝ち目のない責任を負っていると。

これはソーシャルメディアに限らず、Google Play や App Store にも同じ議論がある。こうしたアプリストアには、マルウェアやポルノアプリなどの節制・規制を期待する規制強化の声が集まる半面、プラットフォームを提供するただの 1 社による強権的で独占的な支配 (決済の手数料など) を嫌ってサイドロードを求める規制緩和の声もある。両者とも筋の通った意見だけど、Google や Apple が単独でそれら両方の期待に応えるのは難しい。

そこで、プロトコルが解決策になる。プロトコルがサービス同士の適正な競争を促してきた好例として、メールサービスが言及されている (Protocols to the Rescue の節を参照)。これを応用して、開かれて公平なソーシャルメディアも実現できるはずだとエッセイは主張する。既に存在する ActivityPub とか AT Proto とかは、その候補なんだろうね。

とは言え、プロトコルも銀の弾丸ではない。要するに「従来のプラットフォームの責任を、ユーザーの責任に転換しましょう」という話なので、ユーザーは選択する負担を強いられる。それでも今現実に存在するさまざまの課題に比べればマシな世界だと、エッセイの著者は考えているのだろう。

余談 4-2: Gmailify のサ終

上記のエッセイから 7 年が経つ 2026 年には、電子メールすら囲い込みから免れづらくなりそうだ。エッセイが書かれた 2019 年には、電子メールは相互運用が見込めて、各社がクライアントの作り込みで差別化していた時代だったようだけど、また状況は移ろっている。

2026 年 1 月より、Gmail の Gmailify のサポートが終了する。もともと Gmail には他のメールアカウントを統合して Gmail の画面 (mail.google.com) で閲覧・送受信する機能がある。Gmailify は、統合した他のメールアカウントで Gmail 独自の機能を利用する仕組みだ。含まれるのは、スパム対策、メールの検索、メールの種類 (ソーシャル、新着、プロモーション) に基づく自動の並び替えなど。

これは、Gmailify のような便利な機能を使いたくば、Gmail に乗り換えなさいという圧力として効きうる。引き続きメールアカウントの統合は利用できるので、Gmail で他のメールアドレス宛のメールの送受信は可能。でもユーザーは、好きなドメインで Gmail の機能を使うことができなくなった。

Gmail を分類するなら、媒介型のプラットフォームかな?Gmail (あるいは Google アカウント) の所有者が増えるほど、Google アカウントを狙った商売の参入者を増やせる。すると Google 経済圏はますます広がり、Gmail (Google アカウント) の魅力はさらに増す。無理して “プラットフォーム” に当て嵌めると、かえって分かりにくいかもしれないけど。

ちなみに Gmailify と同時に、POP のサポートも終了する。でもこちらはそんなに違和感ない。今どき IMAP が主流でしょうし、Google もそう書いてる。

  • Gmail では、POP を使用してサードパーティのアカウントのメールを確認する機能のサポートを終了します。

(中略)

  • Gmail で他のアカウントのメールを引き続き受信するには、IMAP アクセスを設定する必要があります。
Gmail の Gmailify と POP の今後の変更について – Gmail ヘルプ

コメントを残す

回れ右の内輪差をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む