帰りの会。

拓郎(7歳)は憂鬱だった。クラスの何人かが、拓郎に泣かされたという旨を担任のカオリ先生にチクッたからだ。
長野がカオリ先生になにやら言っている。
カオリ先生と目が合う。二人の間に緊張感が走る。
カオリ先生は言った。「拓郎君、謝りなさい」
拓郎は渋々従う。
立ち上がる拓郎。静まり返る教室。くしゃみの止まらない園田。
「長野君に、『お前の父ちゃん、ワーキング・プア』と言って、すいませんでした。ごめんなさい。」
席に着く拓郎。静まり返る教室。泣きじゃくる長野。それをなだめる園田。
いま思えば、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。
長野のお父さんはいいともを毎日リアルタイムで見ていることで有名だった。しかし、ワーキング・プアと言ってはいけなかった。せめて、低額納税者とかにすれば良かった。拓郎は自分の幼さに腹が立った。
2人目の被害者である小宮山がカオリ先生になにやら言っている。
再びカオリ先生と拓郎の間に緊張感が走る。
カオリ先生は言った「拓郎君、謝りなさい」
立ち上がる拓郎。静まり返る教室。上履きが片方しか無い園田。
「小宮山君は“アメリカの南部出身”というデマを流してすいませんでした。ごめんなさい」
席に着く拓郎。静まり返る教室。泣きじゃくる小宮山。爆笑の園田。
小宮山は他の人よりも肌の色は黒い。黒い上に坊主頭だから、拓郎にはルイジアナ出身のジャズマンにしか見えなかったのだ。
次の被害者である田之上が、いや、綾子が例のごとくカオリ先生に何か言っている。
カオリ先生は言った「拓郎君、分かってるわね?」
立ち上がる拓郎。静まり返る教室。疲れて眠る園田。
「ビデオ鑑賞のとき、教室の電気が消えているのをいいことに、田之上さんの耳元で愛の意味を囁いてすいませんでした。ごめんなさい。」
席に着く拓郎。静まり返る教室。赤面する綾子。起きて歯を磨く園田。
自分でも、どうしてあんなことを言ったのか分からない。花の受精についてのビデオを見ていたら、どうしようもなく綾子への愛情がメラメラと燃えてきたのだ。愛を囁いた後、綾子はこう言った。


「拓郎は何も分かってないよ。こんなに長い間一緒にいるのに何も分かってない」
拓郎の中に後悔の念がぐるぐると渦巻いている。
そのときだ、カオリ先生が言った。
「拓郎、あんた、これで終わりにしちゃっていいの?」
拓郎は思った。終わりにしていいはずがないと。
気づいたら走っていた。全力で走り出していた。
そして、自分の思いのたけを全てぶつけた。相手は呆気にとられている。
気まずい沈黙が2人の間に流れる。
拓郎はダメだと悟った。
「いいよ」
拓郎「え?」
「何度も言わせないでよ」
拓郎「??」
「だからぁ、あんたと……たっくんと付き合ってもいいよ」
2人とも泣いていた。笑いながら泣いていた。そして教室に帰ると友人達の冷やかしの歓声や指笛の音が鳴り響いていた。
それから、7年。2人も中学生になった。今も拓郎は幸せに暮らしている。
園田と2人で。

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