漢字が大和言葉を細分化した話

漢字を輸入して,日本語は細分化された.
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漢字が日本語の概念を分割した例

たいてい自動詞/他動詞で漢字変わらないと思うの。消える/消す、点く/点ける、沸く/沸かす、濡れる/濡らす。 これはとても自然に感じる.だって主語が変わるだけで,起きる現象は同じだからね.「濡れる」と「濡らす」で漢字が違ったら面倒くさい.厚切りジェイソンが絶叫しちゃうよね.
でも、ひとつだけ,自動詞と他動詞で漢字が変わる組を見つけた.それは「敗れる/破る」.これだけ字が違う(もしかするとこれだけじゃないかも知れないけど)。これは妙だ。勝負に負ける/負かすの意味の「破る/敗れる」ですよ. 布や紙が裂けたり穴が空いたりする場合の動詞組は「破れる/破る」で,両方共同じ漢字だ.
たぶん,漢字を輸入する以前の日本語では,「やぶる」と「やぶれる」は区別されてなかっただろうと思う.でも漢字が入ってきたことによって,それぞれに「破る」と「敗れる」の字が充てられた.と思う.漢字が伝来して,概念を切り分けた.そういうことが起こったんだと思う.日本語は漢字伝来以前にも当然話されていたけど,漢字が中国から伝わって日本語は語彙をぐっと増やした.それによって概念の細分化が進んで,日本語の表現力の幅が凄く広がったと思う.
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「破る/敗れる」の組は「自動詞/他動詞で漢字が変わる例」.似た例として「動詞/形容詞で漢字が変わる例」もある.「動詞/形容詞」っていうのは「羨む」と「羨ましい」とか,「妬む」と「妬ましい」みたいなやつ.動詞と形容詞で漢字が変わる例は「急ぐ/忙しい」.これも漢字伝来以前は区別せず同じ概念,連想の語彙だったと思う.でも漢字が入ってきたことによって,概念が分離されて「急ぐ」と「忙しい」は一見無関係な表記を獲得するようになった.…んだと思う.

普通の動詞も分割された

他にも例えば「かく(紙の上に図形や線を記すこと)」という動詞は,文字や文章を「書く」ときと,絵や図形を「描く」ときで漢字を分ける.体の痒いところを「掻く」というのもあるね.実はこれらは,漢字伝来以前は区別されてなかったそうだ.
「書く/描く」という行為の始まりは,土器や土壁に模様を付けることだった.土の上に模様を付けるために,細い木の枝を使って土の表面を「掻く」ということをしていた.古代の日本人にとって,「土器に模様をかく」という行為は「土器に模様を掻く」だったわけ.
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時代が下って中国から漢字が輸入されて,「かく」は「掻く」「書く」「描く」に細分化された.土器の表面を引っ掻いて「掻く」ことと,紙の上に墨と筆を使って「書く/描く」ことは,明らかに違う.中国から漢字も製紙技術も輸入して,「掻く」と「書く/描く」が区別されるようになった.「書く」と「描く」が区別されてる理由はよく知りませんが,想像で言うと,もともと中国語では区別されてたから,というのが簡単に思い付くかな.
今や日本語は漢字なしに表記することを考えられないけど,漢字伝来以前にも日本語は存在してた.そして,感じ伝来以前の日本語は,それぞれの概念の境界が今よりも曖昧だっただろうと思う.古代の中国は日本よりも文明がめちゃめちゃ進んでたから,中国では概念の整理が進んでいたんだと思う.こう思うと,歴史って面白いなぁって思うね.歴史の影響の下に,僕らは日本語を運用してるって実感する.

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