帰りの会Ⅱ。
ここは都内にあるごく普通の区立高島第五小学校のごく普通の3年生の教室。この教室では今、帰りの会が行われている。
『では、他に何か連絡はありますか?』
担任のカオリ先生がお決まりの台詞を言い、教室を見回す。
『無いようなら“今週の困ったこと良かったこと”に移りますよ』
“今週の困ったこと良かったこと”とは生徒各々の困ったことと良かったことを聞こうという企画である。
『では、まずは困ったことがある人っ!』
ちらほらと手が挙がる。
『じゃあ……神田くん』
神田はここ最近、上手く笑えずにいた。
『えっと……僕の困ったことは…家の前の信号がなかなか青になってくれないことです』
悲痛な叫び静かな教室に響かせた神田。瞳孔を開かせる園田。
『それは困りましたね。では、次……じゃあ、大崎さん』
『はい。えっと私の困ったことは……家の中に私にしか……』
絶句してしまう大崎。鼻孔を閉じる園田。
『落ち着いて、大崎さん』
大崎をなだめるカオリ先生。慌てふためく園田。
『家の中に…家の中に…私にしか見えない人が居るんです…』
『そうですか。それは困りましたね。では、次…田町くん』
『えっと…お姉ちゃんが知らないお兄ちゃんと子供を作っちゃった……』
田町のこの発言は小学生には少々衝撃的だった様だ。教室は水を打った様に静まり返った。園田はなで肩である。
『では、次はみんなの良かったことを教えてください』
ちらほらと手が挙がる。
『じゃあ、神田くん』
先ほど困ったことを発表していた神田の挙手に教室がどよめく。園田が笑った。
『えっと…僕の良かったことは…さっき言った信号でRIKACOに会えたことです』
RIKACOとは隣町の小学校の6年生であり、神田の彼女として名高い。
『それは良かったですね。では……次は…じゃあ大崎さん』
『私の良かったことは……さっき言った私にしか見えない人が毎朝…私に優しい微笑みをくれることです』
『それは素晴らしいですね。では……田町くん。どうですか』
『僕の良かったことは…お姉ちゃんを叱ってるお父さんが不思議と笑顔で目に涙を浮かべていたことです』
『それは良かったですね』
小学生にしては重すぎる困ったことを抱えていたが、克服し強く生きていた。とは言え、周りの彼らの友人は彼らにかける言葉が見つからなかった……。園田もまたしかり。
カオリ先生『悔やむ事も当然……やりきれぬ思いも当然。』
タカシ『先生…!!!』
キヨシ『カオリ先生!!!』
ソノダ『カオリ…』
カオリ先生『――だがこれは前進である!!困らされた相手が誰であろうと困ったことは起こり今終わったのだ!!過去を無きものになど誰にもできはしない!!!………この困ったことの上に立ち!!!生きてみせよ!!!!』
チャカ『敵わぬ…』ポロッ
カオリ先生『区立高島第五小学校よ!!!!』
―――後に歴史に刻まれる困ったことと―――決して語られる事のない良かったことが―――終結した