水無と遵
月野 水無(ツキノ ミナ)が大学を卒業してからもう5年と17日が経つ。新入社員としての扱いは終わり、そろそろ後輩も増えていく、そんな時期だ。『光陰矢の如し』とは良く言ったものだと水無はしみじみ感じていた。
というのも、水無は大学で人生で最大の大恋愛を体験したのだ。水無はその時の二人の記念のあるものをまだ大事にとっておいている。
あの頃の二人の”メモリアル”なあるものを…。
その彼氏の名は遵(ジユン)。二人の出会いはサークル活動が契機となった……。
当時、テニスサークルに所属していた水無は毎週の活動日には必ず参加していた。いつもサークル仲間の
小嶺 藤(コミネ フジ)や
萬音 離蚊(マンネ リカ)や
琵芽(ヒメ・苗字未詳)とテニスするのを楽しみにしていたのだ。
或日尋常が如く嗜好に興じてゐるに…
ある日いつものようにテニスをしていたら、
『新メンバーを紹介するから集まってー!』と召集が掛かった。
行ってみるとそこには1人の男の子と1人の女の子が立っていて、二人とも初々しい顔立ちだった。男の子は方はいかにも髪が切りたてで、茶髪だけど毛の根本が既に黒くなってて、ショートヘアだった。
水無は自己紹介でその男の子が禄乃(ロクノ) 遵という名である事以外には何も聞いていなかった。とてもクラクラしていた。遵に一目惚れしていた。
ちなみにもう一人の女の子は中邑 烋百(ナカムラ キュウト)というそうな。
もう水無はメロメロメロンパンナちゃんだった。
それからというもの水無は藤ちゃんにも離蚊ちゃんにも琵芽ちゃんにも全く絡まずにラブラブ一直線で猛アタックした。その甲斐あってか遵とは飛び切り仲良くなった。
『禄乃クンはどんな女性がタイプなの…??』
『僕……正直、月野さんみたいなヒトがタイプなんです…。』
二人はfall in love。
奈落の底までフォーリンラブ。
そんな二人が付き合うようになったことは言うまでもない。
なぜ言うまでもないかは
言うまでもない。
その後、水無と遵は同棲するに至った。そして一本の草の苗を一緒に育てていた。
当時は植木鉢などない時代柄がゆえに、二人はその苗をペットボトルに挿していた。
ある日二人が寝ていると3匹のタヌキが苗の周りを回って踊っていた。そのダンスに併せるように苗も伸びていって…
という夢を見た。それは確かに夢だった。しかし苗はわずかながら伸びていたのだ。二人は声を揃えて、
『夢だけどー!
夢じゃなかったー!』
とはしゃぎまくった。
それからというもの、二人は毎日その苗の成長ぶりをペットボトルに記していった。そして何cm伸びたか分かるように目盛りまで付けて…
そんな大学の日々を水無は懐かしむように思い出していた。そしておもむろに二人の記念の物を手に取った。
そう二人で苗を育てていた、
メ モ リ ア ル
目盛り有るペットボトルを。