【生物はなぜ誕生したのか】「地球生物学」にピンとくる人に!

新しい生命の歴史

邦題が全く不的確で損をしている
この本は素晴らしい.本当に読む価値がある.ただ,原題が「A New History of Life」なのに,邦題が「生物はなぜ誕生したのか」とすり替えられてる点だけはひどく悪い.この本の趣旨は「生物が誕生した理由を探る」ではありません(そんなもの分かるはずがない!).「なぜ○○は☓☓なのか?」って無能な問題提起の代表だよね.そんな題の本が山程ある.それに倣って邦訳してるのがとても残念.
この本は21世紀の最初の10年間(2001 – 2010)で得られた最新の科学的発見に基づいて,過去(特に20世紀)に語られていた生命の歴史を塗り替え,新しい生命の歴史をダイナミックに語る本.最初の10年と言ったけど,実際には2014年の研究論文からの引用も含むからもっと新しい.
ダーウィン的進化論より,新しい生命の歴史観を!
この本で繰り返し語られる内容の一つは「進化は絶滅によって起きた」というメッセージ.初等的な理科・生物で「生物の進化」を扱うとき,どうしても古典的なダーウィンの進化論を中心にする.ダーウィンの進化論が誤っているわけでは決してないと思う.しかし彼の唱えるほど進化は線形ではなく,つまり「だんだん進化する」という見方はあまり正確でない.
進化の引き金を引くのは「大量絶滅」だ.特に重大なのが「ビッグファイブ」と呼ばれる大量絶滅で,その時一挙に50%を越す種が絶滅した.オルドビス紀,デボン紀,ペルム紀,三畳紀,白亜紀の末に起きた.大量絶滅によって生態系のニッチが空き,そこを目掛けて膨大な「進化の試行錯誤」が行われる.本文では「進化の実験場」という表現もあったかな.

とにかく!生物進化は初等的な理科や生物の授業で教わるような,なだらかで平坦な道のりではなかったということ.一旦生態系のニッチが埋まると,既存のニッチの保持者を駆逐しないかぎり生存できない.だから生物の進化をこんな感じに認識するのが,より正確なんだと思う.大量絶滅で進化は大きく進み,全てのニッチが埋まるとじりじりとゆっくり進む.そして環境の大変動が起きて大量絶滅が起こると膨大なニッチが空き,再び進化は加速する.
思ったより難しい本でした
僕は大学と大学院で惑星科学を専攻した.惑星科学の主眼は地球の歴史で,生物は惑星科学の主たる対象ではない.でも地球の歴史を考えるとき生物を除いては考えられない!例えば現在の地球大気は窒素8割,酸素2割だけど,地球上に植物が生えてなければこれはありえない.生物なしではありえなかった地球環境が,「植物」の光合成によって実現されている!
他にも地球がすっかり凍った(全球凍結)後,再び地球の氷が解けたことは,生物の存在と無関係じゃない.シアノバクテリアがメタンを放出して大気の温室効果を高めたことによって,全球凍結が終焉を迎えたからね.生物が地球環境を変えるなんてかなり突飛で劇的な主張だけど,実は実際に起ってること.だかた「地球の歴史」を研究する上で「生物の歴史」を知らねばならない時があるのです.

だから僕は「衝撃石英」とか「粘土鉱物」のような地球科学の地質学的な基礎知識はもちろん,熱水噴出孔のメタン菌とか全球凍結の終了にまつわる地球生物学的な知識も,僕は予め持ってた.だから読み込むのが苦ではなかったけど,全然知らない状態から読み込むのは大変だと思います.
おすすめできる読者層は,実は限られてるかもしれない.以下の様な人に,僕はこの本をおすすめします.でも自信を持っておすすめするよ!
- 地球科学が好きな人!何か知っていることが一つでもある人!
- 地球化学について知らないけど,これから地球の生命史について勉強したい人!多少意味が分からない単語があっても,意味を調べながら読み進める根気のある人!
- さっと読んで生命史について用語だけでも抑えて知っておきたい人!
1人目は僕.僕は楽しくこの本を読めたから,僕のような地球科学を愛するものは知的刺激が楽しくて仕方ないこと請け合い.2人目は受験生タイプ.頑張って読む.これから新しく知る!そういう挑戦はとても意義深い.3人目は知識を得るのが趣味の人.実は僕はこのタイプでもあるけど,知ることがとにかく楽しいって感じる人がいる.分からないものはズイズイ飛ばして読んで,全体像を何となく知るだけでも面白いと思うよ.

ちなみに,この本を読みながら内容についてツイートしたりしてた.そのツイートを見つかるだけ集めた記事も書きました.見てみてね.全部で何回ツイートしたか全然分からないので,この本についてもっと言ってたかもしれないけど探すの大変.