『すごい廃炉』は、すごい – 書評 2022 (上)

2022 年の上半期に読んだ 2 冊の感想を書きます。
すごい廃炉
この本は、人類の高度な文明に感動したい人におすすめの一冊。多分に政治的になりがちな廃炉の話題を、実直な工学と産業の視点から見つめ、前例の無い難しい工事を安全に遂行する過程を描いた。規制当局と折衝しながら迅速に工事を計画し、必要資材を的確に調達・加工・輸送し、革新的な工事技術を駆使して施工する。「廃炉」と一言で呼ばれる工事の、知られざる専門知の集積を垣間見ることができる。

各工程に込められた極めて高度な工学は、知的刺激に富んでいる。例えば、汚染地下水を増やさない / 漏らさないための、原発建屋付近の区画をぐるりと囲う凍土壁の工事。地下構造物の有無を確認しながら、土地を凍結させる冷却管を埋設していく。管をどこに配置すれば、区画へ流入する地下水は効率的に迂回するか?どの間隔で管を埋設すれば、区画から流出する地下水を確実に堰き止められるか?そもそも「地面を凍らせる」は正しい解決策か?
放射線が及ぼす工法への制約も非常に厳しい。放射線区域では作業員が長く滞在できず、必然的に現場作業を最小化する工法が強いられる。放射性物質の飛散を防止する、建屋をすっぽり覆う金属製の壁 (と天井) の工事では、驚くべき工夫でこの制約を克服した。南北に 47 m、東西に42 m、高さ 54 m にもなる鉄骨の巨大構造物を、一人としてその躯体に登らせずに建設した技術と知恵には強く感嘆した。

著作に携わった写真家による数々の画像も、真に迫っていて印象的。特に、当時のまま時が止まった小学校の教室の写真には胸が詰まる。画像はたくさん収録されているから、心地よい速さで読み進められる。僕はこの本を読んで「もう一度シン・ゴジラを見たら、次は楽しめるかもしれない」と思った笑。この本で語られた大規模な土木・建築・化学の事業が映像化されてると思えば、絶対面白いよね👍

モモ
児童文学でしか味わえない、冒険気分を満喫できる。

児童文学らしい冒険譚はとても鮮やかで、読むたびにドキドキ・ワクワクしては、瑞々しい気分に浸ることができる😊 『モモ』は、身寄りのない少女 モモの周りで起こる不思議な事件を追う物語。1973 年の発行以来、長く愛されてる児童文学の傑作だね。作品は有名で昔から知っていたけど、僕は今回『モモ』を初めて読んで楽しんでます!
一点だけ惜しい点を挙げるなら、せっかくモモの世界に没入しているのに、ぐいと著者が顔を出すような場面があること。というのも、この物語には忙しない現代のライフスタイルを風刺する寓意があり、その点に著者の思想の匂いを少し感じてしまうんです。風刺は薄く止めて、モモの世界の描写に徹すればいいのにと、少しだけ残念に感じたかな。
実は、読み始めたのは「2022 年 上半期」を過ぎた 6 月 29 日。9 月 30 日でまだ本の 61 % 地点なので、読み終わってすらない笑。これから読了までに感想が変わるかもしれないけど、一旦感想書いちゃいます (『すごい廃炉』だけだと記事が寂しいので…)。