【確率思考の戦略論】成功の確率を上げる

よく分かるためにはしっかり読み込む必要があるなあ。

サイコパス性が仕事を進める
僕の端的な感想は「大変興味深い。でもいくらか迂遠な論理構成だ」というもの。この本で得た最大のtakeawayは「仕事を成功させるには確率を最大化せよ」という発想。ある種のサイコパス性が仕事を成功させるのに役に立つという観点は僕にとってとても新鮮な驚きがあった。
サイコパス性というのは「目的のために手段を選ばない」ということとして説明されている。目的のために手段を選ばないことは、目的を達成するためにはたいへん役に立つ考え方だ。それが仕事で役に立つならば、サイコパス性は異常性として現れるというよりもむしろ、「仕事のできる人」という印象として表出するんでしょう。
まぁ一方で、本の中でも述べられている通りに、「目的のために手段を選ばない」がひどすぎてもいけない。それがときどきメディアで扇情的に取り上げられ方をするサイコパスの一症状だろう。殺人を犯すサイコパスは、何らかの目的のために殺人という手段を検討から外さないんだね。
とは言え、この本の著者は心理学者じゃなくてマーケターです。サイコパスについての正しい学術的な理解を得るにはこの本じゃなくてもっと適切な本があるよね。「サイコパス」というキーワードは、分かりやすい比喩として出されているだけだということは理解して読みたい。
本の趣旨
まず、この本の結論はこれ。
θ/nを最大化せよ
確率思考の戦略論
これを簡単に説明します。
まず、本の最重要なキーワードは「プレファレンス」だ1。
どの企業も消費者視点を最重視して、プレファレンスの向上に経営資源を集中せねばなりません。
確率思考の戦略論
さて、ではこの「プレファレンス」とは何でしょうか?「プレファレンスとはこうです」という箇所を引用しましょう。2。
我々が集中すべきは個人レベルでは、\(\displaystyle \frac{\theta_{ji}}{n}\)、消費者全体では\(\displaystyle \frac{\theta_{j}}{n}\) で表されるブランドjの選択される確率 (プレファレンス) です。……
全ての人の総和として選ばれる確率がプレファレンス (消費者の相対的好意度) の正体です。
確率思考の戦略論
それぞれの変数の意味の説明の前に、前提を話そう。袋に赤玉と白玉が複数入っていて、そこから無作為に1つ取り出す作業を、「買う」という行動のモデルとして考えます。自社ブランドが買われるかどうかは、確率的な過程で決定されるよねという立場でマーケティングを考えるわけだ。
その前提で、各文字の意味はこれ。
変数名 | 意味 |
---|---|
\(\theta_{ji}\) | 個人消費者の手元の袋に入っている赤玉の数 |
\(\theta_{j}\) | 消費者全体の袋の中に入っている赤玉の合計の数 |
\(n\) | 最初にある玉の合計の数 |
実際には自社製品についての売上を予測できればいいので、jなどという添字をなくしても同じ意味で解釈できるよね。なのでさきほど書いたような結論が導かれるわけです。
さて、そりゃそうだなと言う感じですが、「こらの変数をどうやって計測するのか?」という疑問は残る。その疑問への回答はこう3。
\(\displaystyle M=\frac{全ユニットセールス\times プレファレンス\times 認知\times 配荷率}{対象人口}\)
確率思考の戦略論
この式は直接に測定するための書かれ方になってないけど、変形して「プレファレンス=…」という式に出来るよね。それぞれの変数の意味はこれ。
変数 | 意味 |
---|---|
\(M\) | 単位期間の平均購入回数4 |
全ユニットセールス | 1年間のユニット単位での市場規模5 |
認知 | Unaided Awareness (ブランド名で誘導されないで計測された認知)6 |
配荷率 | ビジネスウェイト配荷率 (店舗の売上規模やそのカテゴリーの売上規模でウェイトを掛けて修正したストアカウント配荷率)7 |
ストアカウント配荷率 | カテゴリーの商品を取り扱う前項国展開する全ての小売店舗のうち、……自社ブランドを取り扱ってくれている店舗数の割合8 |
対象人口 | 不明? (市場に存在する人口の数かな)9 |
取り留め無さ目
さて、ここまでざっと僕なりにこの本に書かれた内容を解説したけど、感想としては「面白いけど分かりにくい」というもの。例えば上に書いた (僕なりの) まとめには脚注で出典を書いたけど、それを見ても「何でこんなに要点が散らかってるの?」という印象を僕は受ける。言いたいことが短くまとまってる感じはしなかった。
とは言え文章はとても魅力的だし、書かれているエピソードも面白い。全体として大変勉強になったし、僕の知らないことだらけだった。マーケティングで最大の効果を発揮すべく、先に小規模に出版したり小ネタを挟んだりして小さな話題のピークをたくさん仕込んでおく。そうすると本番で望んだ通りの最大のマーケティング効果を得ることが出来るらしい。大変勉強になる。
でもこういう事ができるのはあらゆる消費者が対象の製品群で特に効果を発揮する手法なのかなと思った。例えば契約個数が多くならない性質のBtoBビジネスでは、この本で紹介されている手法を活用するためにいくらか手法の改変が必要そうな感じがする。
出会ったきっかけ
僕がこの本に出会ったきっかけはYouTubeの動画。この人、岡田斗司夫さんという人の話は嘘も多分に入ってそうだけど面白いから好きで聞いてる。こうしていい本にめぐりあうこともできたしね。