【人はなぜ物語を求めるのか】主張が弱すぎる.けど副菜はうまい

淡白な主菜と,豪華な副菜.

(おそらく) これが結論

先に悪い点を1つ述べて,後に良い点を1つ述べます.まず悪い点を説明する前に,この本に何が書かれているのかを整理しましょう.「あとがき」に,まさにこれが結論ですよと書かれている部分がある.引用すると:

人間は物語を聞く・読む以上に、ストーリーを自分で不可避的に合成してしまう。というのが本書の主張なのです。

ここでキーワードが2つ登場したね.「物語」と「ストーリー」だ.本のタイトルにも使われている「物語」という単語 (と,それとよく似た単語「ストーリー」) が,本の中でどのような意味で用いられてるのかきちんと知る必要があるね.よく似てるけど使い分けられているのだから,「物語」と「ストーリー」は異なる意味で使われている,ということは分かる.
順序が逆転するけど,先に「ストーリー」の定義を引用すると,「第1章 1」でこのように書かれてるのを読むことが出来る.

本書では、ストーリーというものを、世界を時間と個別性のなかで理解するための枠組、としてとらえています。

また新しく「時間」と「個別性」というキーワードが登場したように思うけど,一旦ここでは無視しましょう.同じく第1章 1で,「物語」についても定義されているので,先にそちらを引用.

物語とは、ストーリーを(口頭で、手話で、文字で)語る言葉の集まりです。

これで分かるかな?このままだと少し分かりにくいよね…
主張

「時間」と「個別性」

「時間」と「個別性」というキーワードは,本書の核となる概念「ストーリー」を理解する上で欠かせない用語のはず.「本書の主張」でも,「物語」よりも重要度が高いですよ,という雰囲気で語られてる.

本書では、ストーリーというものを、世界を時間と個別性のなかで理解するための枠組、としてとらえています。

「時間」というキーワードは分かりやすいし,本文の中 (第1章 1) にも説明がある.こんな感じ.

できごとを語るということは、「できごとの前」「できごとの後」という前後関係ができるということです。つまり、「時間の流れ」の中で世界を把握する、ということになります。

要するに「人間は時間という概念を使って,世界に起こったできごとを認識してるよね」という意味.それが時間を下る順なのか,遡る順なのか,飛び飛びなのかはさておいてね.まぁそりゃそうだろう.じゃなきゃ物理学は「位置を時間の関数で表すことができる」みたなことを言わなかったでしょうね.
さて,一方の「個別性」については,多少分かりにくい.しかし一応言及がある (第2章 2) のでここから読み取るしかない (ちなみにこの本では「個別性」という語は,たったの2回しか登場しない.「ストーリー」の定義文と,以下の引用箇所のみ.重要ならもっと重きを置いて語られるべきだろう…)

今朝、僕は紅茶を入れるために薬罐で湯を沸騰させました。これはストーリーです。僕という個別の動作主(agent)が一回おこなうことを報告するものです。この個別性が、ストーリーというものの特徴です。

このままでは分かりにくいが,比較することで見通しが良くなる.上に引用した文章の後に,次のような文章もある.

「毎朝、僕は紅茶を入れるために薬罐で湯を沸騰させる (させた)」というような個別の動作主が複数回おこなうことをあつかうものは,前章で取り上げた「括復法」です。
いっぽう、「日本人は朝食時に紅茶を摂取することがある」「水は一気圧のもとでは摂氏一〇〇度で沸騰する」これは個別の話ではなく、一般論です。論理学で言えば、「存在命題」ではなく「全称命題」ということになります。

要するに「人間は一般論や,複数回起こる (起こった) ことではなく,個別の動作主が1回だけしたこと (起きたこと) に基づいて世界を理解している」ということでしょう.
これはある意味そうだし,ある意味全然そうじゃないよね.例えば科学では,再現性が重視される.1度しか起きないことには注目せず,繰り返し何度も起きるできごとに注目して,その背後に潜む規則性をあぶり出すのが科学の手法だからね.なので「人間は個別性で世界を理解している」の点については「ある意味でそうだが,全てには当て嵌まらない」という程度の主張だ.

僕なりの結論の意訳

最初に引用した「本書の主張」にもう一度戻ってみよう.

人間は物語を聞く・読む以上に、ストーリーを自分で不可避的に合成してしまう。というのが本書の主張なのです。

これを,この本の用語の定義に従って少しだけ言い換えるとこうなる.

  • 人間は「『世界を時間と個別性で理解したもの』を言葉で表したもの」を読んだり聞いたりするのが好き
  • しかも『世界を時間と個別性で理解したもの』を合成するのを避けられない

2点目を理解すれば良さそう.1点目の主張は『世界を時間と個別性で理解したもの』がネストされてるから意味を取りにくいしね.2点目を少しだけ言い換えてみよう.以降では,全てに当て嵌まるとは言えない「個別性を通して世界を理解している」については無視します.だって正しくないから.

  • 人間は,時間という概念を使って世界を理解する枠組みを合成せざるを得ない

もっと平易に言い換えるとこんな感じになると思う.

  • 人間は時間という概念を使って世界を理解している

主張
…これって驚くべきことかな?すごく当然のことを主張しているだけに聞こえるけど…何なんだろう.凄く情報量の少ない本だったのかな…?これがこの本の悪い点.

当たり前の情報と、意外な情報では、情報の大きさに差があって当然だ。情報の大きさや程度を情報量という。

この本のいい点は?

大変弱い主張,情報量の少ない主張を核に据えた本ではあったけど,実はその他の話題が結構面白い.というよりも,大変弱い主張 (一般的に「常識」とさえ思われていそうな命題) から始めて,さまざまな面白い議論を展開しているのがこの本の魅力なんじゃないかと思う.
つまりこの本は,言うなれば「メインディッシュは大変淡白で質素なんだけど,一緒に出てきたスープやサラダがとても美味なフルコース」という感じだ.実際に,「本書の主張」と言われた「ストーリー」や「物語」についての話は早々に第2章の辺りで終わっていて (個別性に関する説明があったのは本の頭から1/4程度の場所だ) ,残りの75%の分量で全く異なる話をたくさんしている.

第1章 あなたはだれ?そして、僕はだれ?
    あなたは「物語る動物」です
    どんな内容の話が物語る価値があるとみなされるのか
    話にとって、「内容」は必須ではない
第2章 どこまでも、わけが知りたい
    ストーリーと「なぜ?」
    説明の背後に、一般論がある
    なぜ私がこんな目に?
    感情のホメオスタシス
    理由ではなく、意味が知りたい
    なんのために生きているのか?と問うとき
第3章 作り話がほんとうらしいってどういうこと?
    実話は必ずしも「ほんとうらしい」話でなくていい
    人は世界を“物語化”する方法を変えることができる
第4章 「~すべき」は「動物としての人間」の特徴である
    物語における道徳
    世界はどうある「べき」か?
    僕たちはなぜ〈かっとなって〉しまうのか?
    不適切な信念=一般論から解放される
第5章 僕たちは「自分がなにを知らないか」を知らない
    「心の理論」とストーリー
    「知らない」とはどういうことか?
    ライフストーリーの編集方針

この目次を見て「お,このへん気になる…」という箇所もあるでしょう.実際に興味深い話が書かれている.
僕がこの本を知ったきっかけを作ったブログ記事でも,書き出しの冒頭でいきなり「本論は本論でいいとして,その他の話題が面白いね (意訳)」とある↓.

この本で書かれているのは「人は世界や自分を物語形式(ストーリーとしての出来事の報告)で理解しているのだ」ということだけではない。もちろんそれがベースにあるのだけど、そこから派生した様々な話題が面白い。

ばっさりメインの主張については切り捨てられ,一方でその他の議論の面白さについて言及されているのは,やっぱり「淡白な主菜と豪華な副菜」という構成になっている一つの証拠のように思える.

僕とこの本の出会い

上にも書いたけど,僕がこの本を知ったのはあすこまさんという人のツイートを読んだから.このツイートでした.

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このツイートを見て,リンクされてるあすこまさんのブログ記事を読んだんだよね.で,読んでみて気になったから読んでみたのでした.気になったというのは,同意したというよりむしろ反論したいなという感覚だったけど.

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そしたらなんと著者の方からメンションを頂いた.これは面白い.

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読後,このようなツイートをして著者に感想をお知らせした (ステルスだけど,きちんとエゴサしてるっぽいのできっと伝わるだろうと期待して).

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そうしたら「誤読ですよ.主張を理解できてないですよ」と指摘いただいた.

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何と言うか,この反論はずるいよね.「あなたの反論は,私の理論を理解できていないので反論たりえてません」系の反論.むしろこういう文章のほうが反論たり得てない.もし言うなら「あなたの主張の,具体的にこの点が,読み誤りですよ」と言わないと.まぁ僕のツイートも「ここが誤読ですよ」と言えるほど情報を提供してないからそれはムリな要求か笑.
この記事に書いたとおり,書かれている内容をできるだけ正確に理解したつもり.それで本の主張が「人間は時間という概念を使って世界を理解している」ということであれば,もちろんその点には同意できますが…

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文脈がないと上の感謝ツイートが僕向けであることが明示されてないから分からないけど,これは僕向けの感謝でした.こちらこそありがとうございます!//platform.twitter.com/widgets.js

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