貴弘Loveすとーりー。~高嶺の花の落とし方~
貴弘(29)は3年前に妹子(まいこ)が中国に転勤になったために別れ、エカチェ・理奈と付き合っていた。
理奈はロシアの名家出身の母と日本人の父のハーフで、Ⅱ世にあたる。
二人は小岩井のBarにいた。
『俺達、もう付き合って3年になるね』
貴弘がストパーをかけた前髪をいじりながら言った。
『そうね。いろんなことがあったわね』
理奈が貴弘のモミアゲを触りながら言った。
『あったねぇ。クーデターで王様を追放したり、啓蒙思想家の影響受けたり……』
『そんなこともあったわねぇ』
『それだけじゃないよ。ポーランド分割もやったし、オスマン帝国と2回も戦った』
『あのときは若かったの』
二人の間に幸せそうな笑いが広がる。
『とても楽しい3年間だったなぁ』
理奈がグラスを口に運びながら呟いた。
その時、貴弘が思い詰めた表情でおもむろに話し始めた。
『終わりにしよう』
『えっ!?』
困惑する理奈。
『もう終わりにしよう。こんな関係』
『ちょっと待ってよ!私はまだやりたいことが沢山あるのよ!武装中立同盟を結成して、反英包囲網もつくりたいし、日本にラクスマンも送りたい!』
『とにかく終わりにしよう』
『ちょっと理由を説明して!』
理奈は必死だった。貴弘には最愛の夫ピョートルを亡くし、周りの衛兵との肉体関係に溺れていたところを救ってもらったのだ。
『お願い!そんなこと言わないで!』
必死に懇願する理奈を横目に見て、貴弘は襟足をいじりながら言った。
『もう終わりにしよう。恋人なんて………………………………恋人なんて終わりにして結婚しよう』
『貴弘……!』
理奈は顔を赤らめて言った。
『顔が赤いぞ』
『バカ……』
『これからは二人で武装中立同盟を結成して、ラクスマンを日本に送ろう』
『これからは二人じゃないわ』
『えっ!?』
『これからは二人じゃなくて3人よ』
理奈は自分の腹をさすりながら言った。
『っていうことは……』
『おめでただって……』