優れた情報システムは人間の認知特性に基づく

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これは,2012年11月21日,大学4年生の僕が授業「人間と情報システムの融合」の課題レポートに書いた文章.論旨はおそらく「優れた情報システムは人間の認知特性に基づく」であろう.ここで「情報システム」とはソフトウェアのこと.本文では,人間の認知特性に基づいて巧みに設計されたソフトウェアの好例として,HSV 色空間に対応した画像編集ソフトを挙げてるね.

本論に注目して読めるためのガイドとなるように気をつけながら,転載に当たってパラグラフを分割したり,適当な見出しを付けたりしています.たぶん論旨を見抜けたと思うけど,これまたかなり議論の見通しの悪い小論文でした.例えば結論部の「言語表現への洞察が,人間の認知特性を理解する手掛かりかもしれない」は意欲的と評価したいけど,このせいで論旨が曖昧になっちゃってるのを見ると,まぁ蛇足だろうね😅

  1. 画像編集から考える人間と情報システム
  2. 編集ソフトに実装されたいくつかの色空間
  3. 視覚感覚に調和した HSV 色空間の有用性
  4. 優れた情報システムは人間の認知特性に基づく

画像編集から考える人間と情報システム

人間の感覚系を活かした情報システムを作るにはどうしたらいいのかを考えるに当たって、まずテーマとなるモチーフを決める。今、私は特に写真の加工に凝っていて、スマートフォンなどで簡単にできる物から、パソコンに専用のソフトウェアをインストールして細部に拘った加工まで、いろいろなことを楽しんでやっている。そこで、今回はどのようにすれば、人間の見たままの感動を写真に収めることが出来るだろうか、と言うことについて考えてみたいと思う。

まずは何よりもカメラの性能が物を言う。私が使うのはフィルムのカメラではないし、しかも一眼レフのような高級な機能を備えた物でもない。非常にありふれた、単なるコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)と言う物である。コンデジではあまり綺麗な写真は撮れないかと言うとそうでもなく、最近のモデルではセンサーの感度がかなり向上しているから、普通に旅行の記録を残したい、と言うような需要には十分すぎるクオリティで応えてくれる。

しかし私の写真を撮る姿勢のせいもあってか、時には失敗した写真も出来てしまう。それらは人間の感覚系とは大きく外れた色味であったりボケであったりする。通常は人間の感覚系からは外れないようにそもそも設計されているデジカメであるが、それはどのようにして達成されているのかを考えることにより、人間の感覚系を活かした情報システムを構成する方法を考えていきたい。

編集ソフトに実装されたいくつかの色空間

失敗した写真の多くはまず、色が実物と違う、という点で失敗している。ここでは失敗した写真とは、色の問題点を抱えている、と言う前提の下に、人間の感覚系に基づいた、直感的な操作での画像補正というのもを構成してみる。失敗した写真を綺麗な写真に直すために、写真の色を補正する機能を画像編集ソフトから使う必要が有る。

ここで難しいのはデジタル画像の色の表現方法だ。色を構成する要素は、数学的見地から言えば三次元である。一つの見方にRGBで見る方法があり、また他にはHSVで見る方法がある。写真の色を考えるときには私はあまり使わないが、CMY系もある。これらは完全に一致した色空間をカバーする物ではないけれども、概ね全単射な関数で変換可能として関連づけられている。

それぞれ一応説明すると、RGBはRed(赤), Green(緑), Blue(青)の加法混色の混ぜ合わせで出来る色を表す方法で、反対にCMYはCyan(シアン=青), Magenta(マゼンタ=赤), Yellow(黄)の減法混色の混ぜ合わせで出来る色を表す。これらは前者が光の三原色、後者が色の三原色なのは言うまでもない。またHSVはHue(色味), Saturation(彩度), Value(明度)で色を表す方法である。

視覚感覚に調和した HSV 色空間の有用性

これらの中で最も人間の感覚系に近い色の認識法はHSV系であるように私は思う。くすんだ赤、とか、鮮やかな黄色、とか、そういった表現を、我々は色を言い表すときに使うと思うからだ。普通「赤を3/10、緑を1/10、青を7/10の強さで混ぜた色」という表現はしない。ちなみにこれはRGBで言う所の4D1AB3であり、緑が1/10の強さで混ざっている実感があまりなく、やはり感覚と合わない。この色をHSVで表そうとするなら、群青色の鮮やかさを1/10だけ減らし、明るさを3/10だけ暗くしたもの、と言った感じだ。この方がいくらか感覚に近い色の表現法だ。HSV系は人間の感覚系に合った色の表現法だと言えるだろう。

カラーコード #4D1AB3 の色

とすると、画像編集ソフトは(特に初心者用には)HSV系での色の表現をUIに出すことで問題は軽減されるはずだ。失敗した写真の色味を調整したい場合、この表現で表された色の座標を見て、「鮮やかさが足りないな」とか「もう少し明るい写真にしたいな」とかの感覚に基づいた操作を行えばよいのである。色の表現方法には数種類あるが、人間の感覚系に近い表現方法が整備されていることは素晴らしいことだ。もちろん慣れてしまえばRGBの表現もすっと理解できるようになるので、そのうちにはトーンカーブなんかを弄れるようにもなるだろう。

優れた情報システムは人間の認知特性に基づく

もちろん失敗した写真というのは色の問題だけを抱えているのではない。写って欲しくない影が映り込んでしまっている写真や、ピントが合っていない写真、逆にピントがすべてに合ってしまっているためにメリハリがなくなっている写真など、撮影のときに気をつけないと多くの問題を写真は含んでしまう。それらをいちいち事後の編集で直すのは手間だから、当然撮影時に細心の注意を払うのが最も重要である。しかし失敗することはある。

失敗とはつまり、人間の感覚系で知覚される像と写真が表す像に差異が生じることに他ならない。そこに着目すれば画像編集に於いて、人間の感覚系を活かしたシステムを構築するには、色味の問題であれば、HSV色空間を用いて写真の特性を示すことが一つの解決策であると分かる。人間は色をRGBの加法混色で見てはおらず、HSVの色空間がより人間の色認識システムに近いからである。

今回は色の補正について考えてみた。しかしもっと考えてみると、誰もがHSV系で色を認識しているとは限らないような感じもする。それはつまり、色の認識は言語の影響を無視できないのではないかと言う疑問である。日本語をベースにしてものを思考する人ならば「薄い赤」とか「鮮やかな水色」とか言うが、もしかしたらそう思考しない言語もあるかもしれない。そうすると人間の感覚系に基づいた物であるはずの今回の考察は意味をなくすかもしれない。人間の感覚系というものについてのより深い理解に依存した理論でないと意味を為さないかもしれないのだ。そしてそれは今回の色に関する考察に止まらず、他の「直感的な操作」を謳う様々な製品にも疑問を投げかける材料になるだろう。

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