仲間か?スパイか?疑心暗鬼の鬼ヶ島

最終更新日

これは,2010年2月5日,大学2年生の僕が授業「心理学」の課題レポートに書いた物語.2章が物語の本文で面白いから,それ以外の章は読まなくていいと思う.あまりに面白くて感心したので,読む人がより楽しめるように挿絵まで作っちゃった!それにしても 5,000字近い大作を提出するとは気合い入れすぎ!😂

課題は「2人非ゼロ和ゲームに適合する物語を創作せよ」で,2章の第5節「桃太郎のジレンマ」がギミックを説明した箇所.課題をちゃんと達成できてるのか怪しくて,僕にもギミックの意味がちゃんと分かってない… あまり深く考えずにサラッと読み飛ばして,大事な最後の行だけ読んでください.他のレポート転載ではしないような誤字の修正も今回はしてます.


1. はじめに

このレポートの課題は「物語」の創出、つまり文学作品の製作が求められていると解釈した上で、レポートとしてふさわしいとは言えないような口語的な言葉遣いや表現が使用されている箇所がある。しかし、上記の解釈に則ったことを了承し読み下していただければありがたい。さらに、キジは鳥類であるため「匹」でなく「羽」で数えるべきだが、便宜上、犬、サルと統一して「匹」と数えた箇所がある。末尾に要点をまとめた「3. 2人非ゼロ和ゲームに適合する箇所の詳説」を用意した。

2. 本編「桃太郎 ~疑心暗鬼の鬼ヶ島~」

2-1. 平凡な大事件

昔々あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。すると川上からどんぶらこどんぶらこと、大きな桃が流れてきたのでお婆さんはそれを拾って持ち帰りました。お婆さんが家に着くと、その桃を見たお爺さんはびっくりしました。2人はその桃を切って食べることにしました。お爺さんが包丁を持ってその桃を真っ二つに切ると、中から可愛い男の子が出てきました。2人はその子に桃太郎と名前を付けて大切に育てました。

桃太郎は2匹を仲間に

桃太郎はとても聡明で、精悍で賢く、村の誰よりも力持ちに育ちました。桃太郎が大きくなったある日のこと、日ごろから村人たちに悪さをして金品を巻き上げ、困らせている鬼ヶ島の鬼たちを退治したいと桃太郎は言いました。お婆さんは桃太郎のためにたくさんのキビ団子をこしらえてやり、腰に付けて持たせました。そしてお爺さんとお婆さんは勇ましく旅立つ桃太郎を励まし送り出しました。桃太郎は鬼ヶ島へ向かう道中で犬とサルに会いました。桃太郎はその2匹にキビ団子をやって仲間にしました。

2-2. キジと鬼人の出身地

しばらく歩くとキジに会いました。しかし犬やサルのときとは様子が違います。目つきは怪しく挙動は不審で、何よりキジの頭には鬼のように角が小さく生えていたのです。動物的な本能が危険を察知したのか、犬とサルは「そのキジにはキビ団子をやって仲間にしてはいけない」と言います。しかしあまり深く考えずに桃太郎はキジにも日本一のキビ団子を与え仲間にしました。キジは嬉しそうに半狂乱で羽ばたきました。

キジは半狂乱で羽ばたき

鬼ヶ島へ向かう間も、犬とサルはキジをつぶさに観察しました。どうやら「このキジは鬼と同じで、鬼ヶ島の出身ではないか」と、犬は疑い始めたようでした。またサルは「キジとは鬼の仮の姿で、期が熟せばキジは鬼に変身するのではないか」と言いました。2匹がこのことを桃太郎に話しても桃太郎は全く聞く耳を持ちませんでした。

桃太郎はこの3匹との出会いに物語的な運命を感じずにはいられなかったのです。ましてやこの3匹の中に鬼たちと繋がりのある者がいるとは、このときの桃太郎には知る由もありませんでした。ひそひそと話をする1人と2匹の後を追うキジは、鬼ヶ島へ近づくにつれて次第にその騒がしさを増していきました。

2-3. 鬼ヶ島の決戦

その日の夕、一向は鬼ヶ島に着きました。犬とキジは浜に鬼の衛兵が置き忘れたと見える、浜に刺さった2本の刀を持ちました。サルは「鬼の衛兵が忘れて置いていった武器が、まだ浜のどこかに落ちているはずだ」と言いました。サルは武器を探しに浜を素早く駆けていき、戦うための長い槍をすぐに見つけられたたようで、それを持って帰って来ました。

桃太郎と3匹は英気を養う

そして桃太郎と3匹は鬼との戦いの前にキビ団子を食べて英気を養うと、桃太郎は自前の刀を引き抜いて鬼の住処の門を開き、さっと中へ駆けて行きました。桃太郎を追って3匹も続々と入りました。奥では鬼たちは楽しそうに宴会をしていました。しかし桃太郎たちが怒号を上げて進入したのに気付くと、鬼たちは血相を変え、恐ろしい本性を顕わにして桃太郎たちに牙を剥きました。凄まじい力を持つ鬼たちと、まさに血で血を洗うような激しい戦いを桃太郎たちは繰り広げたのでした。

星が輝き月が高く上る頃、見事に桃太郎たちは鬼たちを成敗することに成功しました。しかし犬は戦いの中で非常に大きな怪我を負ってしまいました。桃太郎は必死に手当てを施しましたが、犬の生命力はみるみる減退していきます。犬は必死に何かを桃太郎に伝えたいようで、蚊の鳴くような小さい声を振り絞って、「キジは…、キジは…、」とうわ言を言っていました。それを見かねたサルは「取って置きの妙薬がある」と、どこからか取り出し、犬にそれを飲ませました。それでも犬の苦しみが和らぐことはなく、それどころかむしろ刻一刻とひどくなっているようでもありました。

桃太郎は不気味さを覚えました

一方この戦いでキジは、華麗に宙を舞い風を切り、鬼たちを意のままに翻弄する圧倒的な強い力を見せ付けました。犬やサルとは打って変わってキジは戦いの後もほとんど無傷で、よっぽど体力が余っているのか戦いが終わってからもずっと、枝に止まって休むことなどはしませんでした。陽気に黒い空の中を飛び回るその姿は、まるでコウモリでした。桃太郎は怪我をした犬を介抱しながら、闇夜の頭上を徘徊する影に初めて不気味さを覚えました。

2-4. サルの言葉、キジの言葉

犬は遂に息絶えてしまいました。桃太郎は悲しみに暮れましたが、いつまでもめそめそするわけにはいきません。果敢に戦い散っていった勇猛な戦士をここで埋葬することに決めました。鬼ヶ島は島です。鬼の住処から少し離れたところにはすぐに砂浜がありました。桃太郎はそこに穴を掘って犬の亡き骸をそっと横たえ、その上に砂を高く盛って合掌しました。

しばらく念仏を唱えているとそこへサルがやって来ました。桃太郎は秘蔵の薬をわざわざ犬のために使ってくれたことをサルに感謝しました。サルは、立派な最期を遂げた仲間の、その即席の墓に手を合わせてから桃太郎に言いました。

「薬のことは構いません。助からなければ意味がないのですから。それよりも私は聞いたのです。キジが鬼との戦いの中で、鬼と会話をしているのを。キジはやはり鬼の仮の姿でした。『ここはお前に殺されても、お前が生き残れば鬼族は不滅だ』と、ある鬼がキジに言っていました。キジは鬼の仲間なのです。この鬼ヶ島には村の人たちから鬼が奪い取った財宝が山ほどあります。きっと優しい桃太郎様はこの財宝を死んでしまった犬以外で3等分して、私たちにお与えくださるお考えでしょう。

サルの言葉

しかし今そうしてキジに財宝を渡してこのまま逃がせば、あのキジがそれを足がかりにして、鬼族を再び繁栄させることもできてしまいます。この方法で鬼が再びはびこるには相応の時間が要るかもしれません。しかしもしかすると、キジは今晩中に私たちを襲い殺して、財宝を独り占めしようと考えているかもしれません。それだけは決して許されないことです。

もしものときのために私は、たった今キジから鬼の住処の大黒柱の弱点を上手く聞きだしました。有事の際は、つまり万が一桃太郎様がキジに殺されるようなことがもしあれば、私が鬼の復活を阻止するべく鬼の住処を破壊します。今こそキジと戦い悪の根を断ち切り、村人の奪われた財宝を私たちで奪い返しましょう。」

2-5. 桃太郎のジレンマ

サルの話を聞いて、桃太郎は混乱しました。しかし悩み続ける時間はありません。キジが今晩、夜襲をかける恐れもあるからです。しばらく途方に暮れた桃太郎でしたが、このような複雑な状況でも、聡明な子に育った桃太郎は最良の判断を下すべく、下記の表1. をこしらえて考えることにしました。

キジが桃太郎を桃太郎がキジを結果
殺さない殺さない鬼は絶えないが、 ある程度金品が返って来る
(つまり停戦)
殺さない殺す悪の根を皆殺しに断ち切る
殺す殺さない桃太郎は死ぬが、 鬼の住処をサルが破壊する
(鬼としても復活の糸口を失う)
殺す殺す相討ちとなり双方不利益
表1. 桃太郎側から見た行動とその結果

きっと最も良い選択肢は桃太郎もキジも殺意を起こさないことだと、桃太郎は思いました。これならある程度の金品は村人に返すことができるし、キジが鬼族を繁栄させ再び悪事に手を染めるようならそこでとどめを刺せばよいのです。鬼族の持っていた財宝は桃太郎が3分の1、サルが3分の1を取り返し、一度に3分の2も失うのだから、そうそう容易くは復活もできまいと考えたからです。そしてこの選択肢ならば、鬼側にも悪事に懲りて改心する余地を与えることができるので、極めて平和的です。

しかし、キジが桃太郎を殺さないとすれば、キジを殺し醜悪で野蛮な鬼を根絶やしにするまたとない絶好の機会であり、これをみすみす上記のような中途半端な選択肢で見過ごすのは余りにももったいないとも考えられます。さて、一体どうしたらいいものなのかと、桃太郎は頭を重たくして悩みました。

キジが桃太郎を殺さないとすれば

もしもキジが夜襲を実行してきたとしよう、と桃太郎は次に考えました。すると言わずもがな、それはキジ、そして鬼族は反省など一切していないことを意味し、桃太郎たちが死んだ後は間違いなく財宝を悪用し、キジは鬼族の復活を図るでしょう。ならばやはりキジにはここで生を諦めてもらい、鬼の全財産を殺害と強盗によって奪い返したほうが世のため人のためになるのではと、桃太郎には思われました。

キジから見ても、理想は攻撃をしないしされない状況なのだと桃太郎には思われました。鬼の住処を残し、再び数を増やし復活への戦略を練ることができるからです。しかしそれと比べて、鬼族の繁栄にはここで桃太郎を殺すほうがやや近道です。キジは先ほどサルに口を滑らせて教えてしまった住処の弱点のことも検案しています。桃太郎がキジを殺しに来ると分かれば、勿論反撃をするはずです。するとキジも同様に考えるなら選ぶ道はやはり攻撃になってしまうのだろうと、桃太郎は結論付けました。

もしもキジが夜襲を実行してきたとしたら

桃太郎はわけが分からなくなってしまいました。最良の選択肢は理解しているはずなのに、どうしてもそれとは逆の選択肢のほうが自分の利益になるように思えてならないのです。キジが夜襲をかけると決まっているわけではありません。キジと戦えば、相討ちという最悪の結果を招くかもしれません。それでもわずかに殺されることへの恐怖がある限り、桃太郎は疑心暗鬼を生じずにはいられません。桃太郎はまだ鬼と戦っているのではないかという、そのような気持ちになりました。まるで自分の心の中に別の鬼ヶ島が存在していて、そこで第二の鬼ヶ島の決戦をしているかのような。

その晩、キジは桃太郎を殺しにはやって来ませんでした。そして桃太郎はキジを殺しました。

2-6. 親に似ぬ子は鬼子

明くる朝、桃太郎とサルは船に乗って、村へと帰る道にいました。結局鬼ヶ島の財宝があまりにも多すぎて、全ては船に乗せることができなかったので、桃太郎たちは半分以上を無人島と化した鬼ヶ島に残して置いていきました。船が対岸に辿り着き、金銀財宝を用意した手押し車に乗せてしばらく行ったところで桃太郎たちは歩を止めました。桃太郎とサルが手押し車に座って休んでいると、サルがぽつりぽつりと話し始めました。

「キジには悪いことをしてしまいましたね。キジが鬼だと決まってからは、桃太郎様もひどくご心労されたことと思います。しかしこのような結末を桃太郎様本人が選び、迎えたのですから、これにはもう納得せざるを得ないでしょう。それでも、しかしですね。少し忘れていらっしゃるかもしれないことがあるのです。

サルが話し始めました

お話しませんでしたが、私は容姿が全く親に似ていないんです。私を生んだ両親はこんな、サルみたいな見た目ではなかったんですよね。このせいで小さいころはよく笑い者になりましたよ。

そう言えば、いまわの際に犬が何かを言いたそうでしたね。あのとき犬は何が言いたかったか見当はお付きですか。きっとあいつはこう言いたかったんだと思います。『キジは黒幕じゃない』。きっと私が鬼との戦いのさなか、鬼と話していたことを聞いていたのでしょうね。そんなことを桃太郎様に告げ口されては私、困りますから、痛手を負ったあの犬めにとどめを刺したんですよ。浜の奥から長い槍を探すふりをしているときについでに持って来ておいた、あの毒薬で。犬だけに、コロっと逝きましたね。

お分かりいただけたことかと思いますが、つまり私と共に手押し車に乗って休んでいる桃太郎様はまさに今、諺で言うところの、鬼を一車に載する状況にあるのです。」

【終わり】

3. 2人非ゼロ和ゲームに適合する箇所の詳説

3-1. 桃太郎から見た場合

これは 2 の本編で触れたとおりである。桃太郎としては鬼側に改心の余地を残し、無益な殺生を最小限にとどめることがお互いのためには最も望ましいと考えた。しかし村人は全ての財宝を速やかに返却してもらいたく思うために、桃太郎は上の選択肢よりもキジをその場で殺害するほうが利益があると考える。もしもキジが桃太郎を殺しにかかってくるとしたら、みすみす殺されるよりは相討ちによって悪を絶つほうが有益であり、もしもキジが殺しにかかってこないとしても悪を絶やすことができるこの機会を逃しはしない。いかに考えても桃太郎は最善の行動を実行することができないジレンマにあることが分かる。

3-2. キジから見た場合

これは本編では触れられていない事項であるから、ここで改めて考察することにする。キジにとっての最良の結末も、桃太郎の考えと同じで互いに殺し合いをしないで済ませることである。これにより、今回の鬼ヶ島の決戦でほぼ全滅してしまった鬼たちを増殖することができ、さらに桃太郎たちにキジは鬼の仲間であることを疑いにくくする効果を大いに期待できる。殺しに来ないのだからキジは鬼ではなかったか、と桃太郎が考えてもおかしくないのである。

しかし桃太郎がキジを殺しに来ないのならば、その方法よりも桃太郎の息の根を止めるほうが鬼族の繁栄には近道である。たとえ鬼族の住処をサルに破壊されようとも、村人たちから強奪した大量の財宝がまだ残るために、その再建は決して難しいことではないし、桃太郎がここで亡くなれば再び鬼が数を増したときに、村を襲撃することを何の障害もなく実行が可能であるような状態をも作り出すことができる。それがキジの最善であるし、また桃太郎がこの番にキジを殺しに来るようなことがあれば、それはキジも桃太郎と戦うことを選択するほうが有益であるのは自明のことである。

したがってキジもやはり最善の答えを知りながら、生憎にも反対の行動が有益見えてしまう逆説的な状況が生じるのである。

3-3. 真実

以上のように考察を進めたが、真実はこの考察とは異なる。キジが鬼の仲間であるとしたのはサルの作戦のうちで、嘘の言葉を桃太郎が信用してしまったことに原因がある思い違いのせいである。即ち 2. 節で述べた2人非ゼロ和ゲーム的な状況は 2-5. までの文章に既出の事実のみを信用して生じたものである。このレポート課題は「物語の創出」であったため、このようなひねった結末を用意してみたが、つまるところの要点は 2-5. までで完成していたことになる。

4. まとめ

なぜこの物語作りという課題を選択したか、その理由は物語作りという課題に大きく深い興味を抱いていたからに他ならない。このレポート制作にあたり、膨大なる時間と労力を払ったが、このような起承転結の分かりやすい標準的な物語を書くことができたので、大いにやり甲斐を感じうるレポート作りとなった。複雑で難解な物語とはいかないが、それなりにまとめられた文章で書くことができ非常に満足するとともに、囚人のジレンマに代表されるような2人非ゼロ和ゲーム、ひいては非ゼロ和ゲーム全体の深遠さを身にしみて体感することができ、たいへん意味のある活動になった。

参考文献

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