データリカバリーサービス社のレビュー

データリカバリーサービス を利用したので,そのレポート.
データは復元しなかった
まず結論から言えば,データは復旧しなかった.でもそれは僕が自分でPhotoRecを使用してディスクをめちゃめちゃにしたからだと思ってる.本当はデータを削除してしまったり,読み込めなくなったりしたらその時点でパソコンを切ってディスクの現状を維持するべきなんだよね.それをしなかったから復元に失敗したのかも知れないので,不用意なことは言えない.もしかしたら自分でデータにとどめを刺したのかも知れないからね笑.
サービスはとてもいい.
会社のウェブサイトにも色々な記載があるけど,確かにサービスがとても良かった.説明は十分だし,申し込みも簡単だった.パソコン本体を先方へ送るときも送料を負担してくれたし,返してもらう時の送料も負担してくれたし,初期診断も確かに無料だった.今回の結果は残念だったけど,調査の結果報告をしてくれるから,なんというか,興味深い.もし次回があれば(無い方がいい笑)利用してもいいと思った.
結果報告の何が興味深いって,初期診断で「復旧可能だと思う」としたものの,実際に作業してみたら「データが想定以上に細分化されており,正常な状態で取り出すことが出来なかった」と,赤裸々に(?)書かれていること.きっと初期診断はざっとしか見ないんだよね(無償ですから当然だ).そこで不可能なら「これはダメです.どうせ無理なのでお受けできません」って返還するのかな.それも良心的だと思う.

で,じっくり見てみたら「何じゃこりゃ!想定以上に細分化されてる!」って度肝抜かれた感じかな.まぁデータが細分化されてるのは,僕が自分でPhotoRecを起動したからだ.きっとPhotoRecを起動したことで,再起不能なほどにデータが細分化されちゃったんだと思う.僕はプロじゃないので予測ですけど.いずれにせよ報告が言い訳がましくなく,正直に書かれているのは好印象でした.
料金が意味不明
ただひとつだけ(実は2つ)文句言いたいけど,料金がとんでもない.2つのプランを提案されて,いずれか一方のプランでお支払い下さいと言われた.
- 完全成功報酬プラン
- 希望データが復旧できなかった場合には一切のご請求をしない形式.27万円.
- 固定作業費プラン
- 復旧可否に関わらず見積もり通りの金額を請求する代わりに費用を抑えた形式.5万4千円.
価格差ありすぎ!!27万円て!!払えるか!!!
確かにウェブサイトには完全成果報酬型の案内があって,希望のデータが復元できなければ0円だと書いてある.でも成功した時の価格を表示してないのは何とも.もちろん今回の僕の依頼はPhotoRecによってやたらめたらデータが断片化されたひどい状態だから27万円なんて値段なのかも知れないけど,それならそれで「成功報酬型の場合,ハードディスクの状態によって成功報酬が変動します.予めご了承ください」くらい書くべき内容かと思う.
あと,ちょっとした文句.連絡が遅い.1週間後に連絡します,みたいなメールが届いたきり,音沙汰がない状態が続いた.1週間経過後に催促のメールをしたら,「本日営業時間ギリギリまで様々な方法を試みましたが,復旧が不可能でした」とメールが返ってきた.遅いよ!3日もやればどんな具合か分かるでしょ.
まぁ別に豆に連絡されても困るんだけど(どないせっちゅうねん笑),1週間放っとかれるのも不安です.ダメならダメでいいんで(だってそれ以外に言いようが無いから),何かしらの中間報告があると良かった.パソコンのデータが消えた人ってのは不安なんです.
心理学的な推測
ここからは余談.僕は心理学を専攻して勉強したり研究したりした経験はないけど,2通りの価格設定というのはかなりの妙技だと感じた.高くてハイリスクハイリターンな選択と,安くてローリスクローリターンな選択.データリカバリーサービス社の復旧サービスを利用する人が全員僕と同じ料金プランを提案されていたとすると,そのうち80%くらいの人が安い方のプランを選んでいそうな気がする(特に根拠ない推測です).
パソコンのデータ復旧を依頼する人は,自分のデータが復元されることを願ってる.「復元されて欲しい」わけ.高い方のプランだと,復元されなかったら金銭的には得をするかも知れないけど,データが復元しないなら残念だ.「データは復元されないだろう!」に,お金を賭けてるみたいな構図の料金設定.
復旧を依頼するほとんど人は,そっちに賭けないと思う.得られる結果は「データは復元できたけど,お金がめちゃかかった」もしくは「お金はかからなかったけど,データは復元できなかった」の2通り.プラスマイナスゼロとは言わないまでも,スッキリしない印象だと思う.
安いけど成果にかかわらず支払いの必要のあるプランは,前者のプランに比べて普通感とか納得感がある.依頼したんだから料金を取られる覚悟はあるし,データが戻っても戻らなくても同じ料金なら分かりやすい.データには復元してほしいわけだから,復元する方に賭ける.どうせ復元するなら,27万円で復元するのと5万円で復元するのを比べたら,5万円の方を選ぶでしょ.
という訳で,思うにこの2択では,統計的に「固定作業費プラン」が選ばれる場合のほうが圧倒的に多いと推測する.割合としては80:20の割合かな(パレートの法則を出してみただけ笑.適当).
自己一貫性のための正当化
人間は自分で考えて選んだ選択に関して自己の一貫性を保つために,いかなる結果を得ても追認的に正当化して自分の選択に納得しようとする傾向がある.ということは,5万円のプランを選んだ人たちは,27万円のプランを選ばなかったことを自分で勝手に正当化する.「私の選択は間違ってなかった.結果に不満はない」と自分に言い聞かせちゃうんだよね.
データリカバリーサービス社の料金設定は非常に巧妙だと思う.データが復元してもしなくても,客は自分で自分を無意識のうちに説得して正当化する.データ復元という成否が予め読みにくいビジネスに於いて,最大限に顧客満足度を高めようとする工夫かも知れないね.少なくとも僕はそのように感じた.
しかもこれは,ちょっと悪どい応用が利く.顧客がいずれの選択をするにしても,2択を提示したことによって勝手に自己正当化して納得してくれる.それなら少し水増しして高めに設定しても問題ないかも知れない.
多くの人が固定作業費プランを選択することが事前にわかっているなら,ほとんど選ばれない完全成功報酬プランの値段を法外にブチ上げておいて,固定作業費プランの相対的な納得感を大きくすることができる.そうでなく,単純に固定作業費プランの値段を3万円から5万円に設定しても,おそらく誰も文句言わないだろう.
まさかそんなことないとは思うけど!でも人間の認知とはそういうものだから,その性質を応用して価格設定するクレバーさがあってもいい.というかあるべき.そんなことを考えたデータ復元の発注でした.
ダン・アリエリーという行動経済学だか心理学だかの専門家がいる.彼の研究は人間の興味深い「不合理性」を明らかにした点で卓越してる.面白いTEDの発表を一つ紹介します.