【WORK RULES!】興味深いビジネスの知見

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人事の話だけど,単純に知的刺激に富む良書.

ワーク・ルールズ!

人事は会社の軸かもしれない

2015年8月に(電子版が)発行された本.これは「人事」の話について書かれた本.人間が仕事をするための動機付けの話題.最高のチームを作るための採用の話題.平凡な人事が想定する社員の能力分布と,実際の能力分布の乖離の話題.福利厚生の話題.僕は人事担当者ではないけど非常に知的に刺激的で興味深い本だった.知的刺激をお求めの読者にはぴったりだと思う.別に人事担当者が読んでも面白いと思うけど.

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多くの話題を提供し,たくさんの示唆を含む本書.全体は14章で構成される,質・量ともに膨大な内容量.それらの中でも僕が気に入ったのは2章,5章,8章,12章(1,多いって?笑).1つずつ説明したい.

顧客に会うべし.そして与えるべし

たとえ数分間であれ,手を貸そうとしている相手に従業員を会わせることは,彼らへの最大の動機付けの要因なのだ.それは,人の仕事に出世主義や金銭を超えた意味を吹き込むのである.

ワーク・ルールズ!

アダム・グラントは『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』で,目的には幸福だけでなく生産性も増進する力があると書いている.大学の寄付金を募集するコールセンターで働く有給従業員(電話で寄付を依頼する仕事)を対象に調査を行った.大学の奨学金を受けた学生の生活がいかに向上したかを聞かされるグループと,それを聞かされないグループの働きを比較したのだ.

まずは両グループを同条件で働いてもらう.次に一方のグループにだけ「やりがい」を与え,もう一方には与えず,両グループに再度同じ期間働いてもらう.すると学生の話を聞かされたグループは聞く前と比べて寄付金を143%も多く集めるようになったそうだ.対照的に,聞かされていないグループが集める寄付金の額は(当然だが)変動しなかった.

仕事の成果を向上するためには,「目的」が重大であることを強力に示唆する実験だ.僕の仕事の顧客は誰だろう(この質問がそれほど簡単じゃない…)?それが明確にならないと,この教訓を活かすことが出来ないなぁ.

試しにやってみてもらえばいい

ある人の職務能力を予測するための最善の指標は,ワークサンプルテストである(29%).これは,採用された場合に担当する職務に似た仕事のサンプルを応募者に与え,その出来栄えを評価するものだ.

ワーク・ルールズ!

上記の主張は,フランク・シュミットとジョン・ハンターが1998年に発表した研究に基づく.その研究とは,面接時の評価から職務能力をどこまで予測できるかという85年に亘る研究をメタ分析した研究だ.括弧内の数値は相関の決定係数で,\(r^2=0.29\)を意味する.これは比較的に大きい数値であり,非構造的面接の決定係数は0.14,身元紹介は0.07,職務経験年数は0.03,筆跡に依る能力解析は0.0004であったそうだ.

ちなみに相関の強さ第2位の指標は「一般認識能力テスト」で,第3位は「構造的面接」だそうだ.一般認識能力テストとして本書ではアメリカのSATに言及があるけど,日本ならばSPIテストだろうか?

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僕は偶然この箇所を読んだ日に,ちょうど採用面接をすることになっていた.そこで実際に彼に(応募者は男性だった),採用したらやってほしい内容に似た内容のテストをしてもらった.感触としては「これで確かに応募者の能力に関して何か分かりそうな気がする」と思えた.

でも,実際にその時には「とは言え,じゃあ今の彼が優秀かどうか自信を持って判断できるか問われたら,出来ないと答えるなぁ」とも思った笑.この方法が効果的だったのかどうか見当が付かなかったけど,それは (2016年10月現在) 僕のした最初で最後の採用面接だったのも理由の1つ.あと最終的な採否を決めるのは僕の仕事ではなかったことも付け加えておこう.

能力は正規分布しない

また、企業は現実の成績が同じ分布に従うかのように社員を扱うが、それは間違いだ。実のところ、組織のなかで人が発揮するパフォーマンスは、たいていの仕事の場合べき分布になる.

ワーク・ルールズ!

巨大地震,ハリケーン,株式市場の変動,貧困層と上位1%の格差,一握りの人たちの群を抜いた身体能力など,平均値からかけ離れた現象が起こる確率を,正規分布は過小に評価する.しかし,ビルゲイツの莫大な資産,東日本大震災のマグニチュード,マイケル・ジョーダンの成績など,群を抜いた現象が起きることは現実だ.これらを上手に説明するためには別のモデルが要る.それがべき分布だ.

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おそらく,人類社会全体である能力に関するテストを行えば,能力の分布は正規分布に従うと思う.ただ,会社は人類社会全体とは異なる.苦手でそぐわない人はそもそも入社を希望しないし,入社を希望した人中から選定した人だけが実際に入社し,そして残っている.その過程を考慮すれば,社内の能力の分布が正規分布でなくべき分布であることに少し納得がいくかもしれない.

これは僕が単純で,「まぁ大抵の分布は正規分布に従うと思ってればいいでしょ」という安易な思い込みを払拭した点で印象的な箇所だった.でも今読み返してみても「組織のなかで人が発揮するパフォーマンスは、たいていべき分布になる」の根拠となる論文等が記されてないんだけど,独自研究なんだろうか…

命令ではない.ナッジ.

この章については特定の箇所を引用しない.ナッジとは「それを選択しないと判断することが容易で,かつ大きな犠牲を伴わない.ナッジは命令ではない.果物を目の高さに置くことはナッジであり,ジャンクフードを禁止することはナッジではない.」と定義される.

125ドルの商品を120ドルで買うために遠くの店まで足を運ぶことはしないが,15ドルの商品を10ドルで買うために遠くの店に行くことはある.全く同じ芸術作品の展示であっても,入場料を取られたニューヨークの鑑賞者は,無料で入場・観覧できたロンドンの鑑賞者よりも滞在時間が有意に長かった例もある.人は価値判断や行動基準を明確に論理的に決定しているわけではなく,その他の要因に容易に影響を受けて意思決定は変わりうるということを示している.

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[画像] selective attention test – YouTube

Inattentional blindness にも言及があるけど,僕はこういった心理学的な研究が好き.人間の曖昧さを定量化してみたい.量として把握できなくても,傾向を知るだけでも十分に(僕のような心理学素人には)面白い.人間の意思決定の曖昧さの隙を突いて,労働生産性を向上させるための施策アイデアが書かれた章だけど,具体的に何があったか忘れちゃった!僕好みの内容が書かれてるなぁというざっくりと印象を持った.

まとめ.面白い!読むべき!

こんなに長文で書評というか感想を書いた記事は初めてかもしれない.体系的に,具体的な数カ所について個別に言及してるからかな.とにかく面白いです.分量はとても多いから,読み終わるのには時間がかかると思うけど,その分充実した読書体験になると思う.おすすめ.

ワーク・ルールズ!

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