火星の自転軸傾斜角変動にともなう二酸化炭素システムの変動

要旨

火星環境は,大気 CO2によって強く規定されている.それは火星の大気の 95% が CO2 であること,極冠や地表のレゴリス層が CO2 のリザーバとなっていることに起因する.火星の自転軸傾斜角と軌道離心率は過去数万から 1000 万年の間大きく変動していたことが理論的に推定されている.惑星の自転軸傾斜角や離心率は日射量の緯度分布や季節変化に影響を与える要因であることから,これらの変動は気候変動を引き起こす可能性が高い.先行研究においては,南北 1 次元エネルギーバランス気候モデルと火星表層における CO2 交換モデルを結合したモデルを用いて火星の気候の多重性やその進化について議論されているが,自転軸傾斜角変化や離心率変化による火星表層における CO2 リザーバ間の分配を含む火星表層 CO2 システムの挙動の解析は行われていない.また,火星の近過去における気候変動や火星表面にみられる周氷河地形との関係,という視点での考察はない.

そこで本研究では,自転軸傾斜角と軌道離心率の変動に対して,火星特有の気候システムがどのように応答するのかについて検討を行った.また,そのような火星表層 CO2 システムの挙動について詳しく検討した.その結果,自転軸傾斜角が現在よりも小さい場合,火星両極における永久極冠の発達により,大気は非常に希薄(現在の十分の一以下)にまでなること,しかし自転軸傾斜角の増加につれて永久極冠は縮小し,大気圧やレゴリスの CO2 リザーバが増加することを明らかにした.そしてある臨界値を上回ると,永久極冠は消滅し,季節性極冠(冬季に形成され,夏季に消滅する)が形成されるようになる結果,自転軸傾斜角は大気圧を含むすべてのリザーバに大きな影響を及ぼさないこと(CO2 の分配が自転軸傾斜角によらなくなること)も明らかになった.

また,衝突クレーター内壁斜面のような平地とは異なる条件で局所的な CO2の凝結が生じるかについても検討を行ったところ,赤道向き斜面によりも極向き斜面で選択的に CO2 の凝結が生じやすいことが示された.このことは,斜面における氷河作用の非対称性を意味することから,火星の中緯度にみられるクレーター形状の非対称性(極向き斜面の平坦化)の成因と関係している可能性が示唆される.

修士論文

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