公正な税が社会を支え、安定した社会に腐敗が起こる – 書評 2024 Q3
脱税の世界史
歴史を税で読み解く本書の視点は、斬新で刺激的。富裕層から徴収し公共に還元する税は、正しく運用されれば社会を繁栄させる。一方、繁栄し安定した社会では階層が固定化し、税の理念に反する行為が横行する。そして社会不安が起きて再び混乱へ――。

戦争に言及せずとも歴史は語りうるし、歴史を別の視点で眺めてこその学びがある。これを示した本書は Q3 で最良の一冊。というのも、僕は 2023 年に『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』を読み、なぜ歴史は戦争ばかり語るのかとスカを食ったのだった。
古代エジプトの時代から現代に至るまで、数々の大事件の裏の税金問題を解説した『脱税の世界史』が文庫になりました。ローマ帝国の崩壊や宗教改革、フランス革命に産業革命、歴史上の大きな転換期の裏には脱税あり! 国家存亡の歴史は税金の歴史といっても過言ではありません。元税務調査官の著者が、世界の脱税の歴史をひもときます。
脱税の世界史
新国防論
主眼は、2015 年 9 月 19 日に成立した安保法制。自衛隊の海外派兵を容認するこの新ルールを題材に、現代の国際法における軍隊の法的位置づけを論じる。軍事た安全保障に疎い僕にとって初めて知る事実も多く、学びを定着したくて印象的な部分を自分なりにまとめて書いた。

安全保障は一国のみでは成し得ないことを前提に、国際的な常識の下で戦略の議論が必要だ。ややもすると日本が被害者だったかのように太平洋戦争を語る人がいたり、戦争は考えなければ無いも同じとでも言いたげに護憲を唱えるだけの人がいたりする。安全保障には理想と現実のバランス感覚が重要だから、イデオロギーに偏執した人が議論に建設的に貢献するのは難しい。
栢木先生の基本情報技術者教室
IPA が実施する国家試験 基本情報技術者試験の人気のある参考書。数多ある参考書からこれを選んだ理由は特になく、たまたま Amazon で検索して上位だったから。結果的に、これを勉強して 1 発で合格できたので良かった。買ったのが 2022 年なので、2022 年 (令和 05 年) 版です。

情報はかなり圧縮されてるので、基礎知識があるか他の資料 (参考書、問題集) も参照するつもりの人に向いてると思う。試験対策として有用だったのは、過去問の例題。やっぱり自分で出力して初めて定着する知識ってあるもんね。
漢字と日本人
漢字の日本伝来から戦後新略字までの歴史を軽妙な語り口で一望する。不当に多い同音異義語を始め、日本語と腐れ縁となった漢字との付き合い方について、様々な歴史の事実を紹介する。入声や字音語といった専門用語が登場するが、全く難しいところなく読める良書。

一方で、少し著者の国粋主義的な思想は鼻につく。文化や歴史が相互に関連して影響し合いながら発展してきた事実を軽視する。そして「日本語の文字とは」といった本質な問いに、著者がよく知る過去 100 年程度の日本像だけを絶対視しようとする論考は浅はかだ。これについては別の記事を書いた。
しかし、日本における漢字について詳しく知ろうとするなら、知的好奇心を満たすのにちょうどよい。偏屈な昔気質 (ちょうど石原慎太郎みたいな感じ) の人間の文章のニオイを端々に感じ取るけれども、内容はたいへん学びの多い刺激的な 1 冊。
英語の品格 実践編
直接的すぎる言い方ではなく、機微に触れる上品な英語で話すための例文集。点の知識のみ語られ、知識を線や面にするのは読者に委ねられる。僕は普段から英語に触れるから知識を繋げるのは容易で、僕にとっては良い本だった。

知ってよかった表現をいくつか選定しよう。
- Please accept this gift. // take は簡潔すぎ、直接的すぎて △
- I hope you will feel better soon. // お大事に!
- under the weather // 少し体調が悪い
- put me in touch with // 私を誰々に紹介して
- I didn’t hear it. // 聞かなかったことにするよ
- I look forward to seeing your work on this project. // 期待 expect と言うと命令的
- I don’t think that getting it done by tomorrow is realistic. // 可能性の否定には「現実的と思わない」と言う
- I’m sorry that this happend. // 相手にも非があるときは「事態を残念に思う」と言う (謝罪ではない)
- step on the gas // 加速する。原義は「アクセルを踏む」
- cement // 固める。名詞と同綴で動詞にもなるのは英語の特徴だね
アフリカ 希望の大陸
アフリカ各国に存在する非公式経済を、後進性の象徴と考えるのは間違いだと本書は指摘する。非公式経済は登録されず、記録されず、GDP にも含まれない。しかし不景気には仕事を提供し、経済成長時には共に拡大する。驚くほど安定した働き口の供給源として、非公式経済は労働市場に生じる隙間を埋める、アフリカ独特の創造力なのだと。

こうした独創性をカンジュと名付け、西欧式に則らない経済・社会の発展を説く。カンジュは、機能不全の政府に対抗あるいは補完するものとして語られる。一方で、僕は非公式経済が持つ現時点の便益は認めるけれど、それでも様々の活動を公式化して管理下にするのが文明的な社会だと思う。
他にも、別の記事で言及した OLPC (One Laptop Per Child) やガーナ人報道活動家 Anas の逸話は興味深かった。OLPC が「現地の実態を蔑ろに、富裕国が押し付ける善意」として賛否両論に語られているのは新鮮。僕はガーナに行ったことがあるから、正義の報道が暴く実態も少しだけ察するところがある。
実は、本書は 2017 年 5 月に買って一度読み終えてるんだけど、今回読み返して内容をほとんど覚えてなかった😅
ICEMAN
たまたま寒さに強かった人の体質をとんでもなく拡大解釈して、それを普遍的な健康法と詐称するトンデモ本。そもそもギネス記録を 18 も持つ外れ値の中の外れ値の個人を根拠に、誰にでも適用できる健康法を導き出せると考えるのは無理筋だ。

最後の節「ヴィム・ホフについて」を読むと、本書のカルト性はさらに際立つ。曰く、インドを旅して冷水の悟りに達したのだと。インドを安易に神秘視したり、創始者が成道する逸話をありがたがったりするのは、いかにもという感じだ。
その危険極まりない滝に飛び込みたいという抑えきれない衝動を感じて――彼は飛び込んだ。しばらく水と戦ったあと、ヴィムは壮大な滝の下に立った。彼の思考はすぐに頭上に降りそそぐ冷水によって中断された。
自分自身よりもずっと大きな強さと力の感覚が彼を捉えた。それ以来、彼は氷のように冷たい水を愛するようになった。
だから、ヴィムは本質 (奥義書に隠された精神) を求めてインドという精神性の揺籃の地に旅して、寒さが彼の身体と、そして何よりも彼の精神に与える効果を見つけたのだ。
ICEMAN
自分では気づかないココロの盲点
80 種類の認知バイアスを取りとめなく列挙したメモ書きのような本。わざわざ買うより、Wikipedia の関連記事を巡る方が安上がりで楽しそうだ。誰かが論文にした認知バイアスに批判的な視点で切り込むでもなく単に列挙する本書は、科学とは言い難い “雑学” の本。
例えば、議論の正確性に疑義のあるダニング・クルーガー効果に批判的な眼差しは少しも無い。原典に触れた科学者なら当然懸念する荒っぽい推論をすっかり無視して、世に蔓延る俗説をなぞるだけの内容は空虚だ。原論文は Univercity College London が公開してる。

一見して矛盾する 2 つの認知バイアスの関連について、体系的な整理は無い。過去の自分を劣っていたと評価する変化バイアスと、自分は以前から一貫していて変わらないする一貫性バイアスは互いに矛盾しそうだ。雑学の程度に留まる本書は、そうした詳細には立ち入らない。
認知バイアスが、関連の見えない例で説明される場面もある。「暗記テスト」より「心理テスト」と称するほうが、年配者の試験成績がよいそうだ。これが偽薬効果として紹介される。効果が無いはずの偽薬で症状が改善する現象が偽薬効果だけど、それと「心理テスト」に何の関係が?
